リクエストC




(のびのび屋)
(あーんして欲しい速水)
(あいこ様リクエスト)



速水はその日、珍しく疲れていた。学校行事を前に生徒会が忙しくなったので、最近は働き詰めの日々が続き、今日は一日仕事をしていたらしい。

夕飯の時間、速水の部屋で夕食を囲む二人だが、そんな速水のせいか会話は弾まない。速水は今にも眠りそうで、陽は見ていてなんだか落ち着かない。

「先輩、食べるか寝るかどっちかにしないと」
「……食べる」

陽の言葉に、一瞬だけ力強くそう言った速水。だがまたすぐに眠りそうになる。
見かねた陽が、無理にでもベッドに寝かせるべきかと考えていると、必死で眠気と戦う速水があまり動かない口をモゴモゴと開いた。

「ちゃき」
「ん?」
「あーんして」

もう、箸を持つ気力もないらしい。陽は呆れてため息を吐いた。珍しく甘えてきたものだ。

「先輩、赤ちゃんじゃないんだからさ」
「うるせー……」

悪態をつく速水だが、いつもより弱々しい。あーんだなんて、絵的にかなり寒い行為は絶対にしたくない陽だが、こんなに眠そうなのに自分が作った夕食を食べようとしてくれていると思うと、無下にできない。

考えているうちに、速水はどんどん眠りの世界に旅立ち始めるので、慌てて箸を持った。

「もう、仕方ないな。はい、あー……」
「あー……」

おかずを小さく切って、間抜けに開いた速水の口に入れる。本当に赤ん坊の世話をしているようで、陽には速水が可愛く思えた。

そうしてかぼちゃの煮物を口に入れられた速水は、ゆっくりとそれを咀嚼し始める。ああ、今日も良い味だ、とのんきに考えていたが、急に、カッと目を開いた。

「は?」
「うわ、ビックリした」

半分閉じていた速水の瞼が、しっかりと開いていた。陽の肩が驚きで思わず跳ねる。ポカンとした表情で、速水は自分のために次のおかずを小さく切ってくれている陽を見つめた。

夢の中にいるような気分で、それが現実かも分からずにふわふわと口にした、あーんしてという発言。
それが実行されたのだと実感すると、眠気は一気にとんでいった。

「お前、食べさせてくれた……?」
「寝ぼけないでよ。先輩が頼んできたんでしょー」

眠気で意識がとんでいた。
まさか、陽が自分のためにあーんをしてくれるとは思わなかった。
速水の言葉に不満そうに口を尖らせる陽を、暫く見つめる。なんて可愛らしいことをさせたんだと、数分前の眠気でいっぱいの自分を褒めたくなった。

「起きたなら自分で食べてー」
「お、おう」

結局、たったの一口しか実現しなかったあーんだが、速水は嬉しくて仕方なかった。完全に眠気がとび、スッキリとした面持ちで、その日もキレイに夕食を完食したのだった。



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