拍手文A(〜2/22)
(のびのび屋)
(速水×陽)
(陽の風邪/キムち様、多恵様リク)
速水が陽の異変に気付いたのは、ある日の朝のことだった。
いつもなら速水が起きる前にベッドから抜け出し、朝食を作っている陽が、その日は速水が起きる時間になってもまだ寝ていた。たまには寝坊すんだな、なんて寝起きでボーッとしながら思った速水だが、ふと、眠る陽の眉間に盛大にシワが寄っていることに気付く。
不思議に思ってよく見てみれば、なんだか陽はとても寝苦しそう。なんとなく額に手をあてると、そこは普通より遥かに熱を持っていた。
速水は慌てた。彼のファンなら目を疑うほどに、狼狽えた。
陽が最近取材や仕事で働き詰めで、その疲労が貯まっていた故のこの発熱だというのは、すぐに気づいた。気付いたのだが、心配で仕方ない。
自分の大切な存在が体調を崩すというのは、速水には初めての体験だったのである。
速水はひとまずベッドから出ると、陽を真ん中に寝かせて布団をかけ直し、いつも奪われる枕を貸してやった。
それからカードキーを持って、急いで買い物に行くのだった。
速水が肩で息をしながら買い物から帰ってくると、寝ていた陽が薄く目を開けていた。速水は慌てて駆け寄る。
「ちゃき、平気?」
「せんぱい……?」
「お前熱あるよ」
どこかボーッとする陽に、体温計を渡すと、大人しくそれで熱を計り始める。そして計り終わってその数字を見れば、速水は苦笑した。
38.6℃
立派な風邪だ。
また布団をかけ直してやりながら、速水は熱で火照る陽の頬を撫でてやる。
「最近頑張ってたもんな」
こんな小さな体で、たくさん働いていた。速水はそれが誇らしかったし、少し心配だったのだ。
「あんま無理すんなよ」
「はーい……」
「早く治そ」
少し辛そうな陽の前髪をかき分けてやる。なんとなくそこにキスをしたい衝動にかられたが、我慢した。
弱った陽は、不謹慎ながらとても可愛い。返事はいつもより素直だし、大人しいし、なにより表情が色っぽい。
速水は、心配な反面得した気分にもなったのだった。
その日一日、速水は陽から片時も離れなかった。看病というものを初めてして、熱で苦し気な陽を見ながらずっとハラハラしていた。
しかしその甲斐があってか、夜には陽の熱は下がった。
「せんぱい」
「んー?」
「心配した?」
「したねー」
ベッドで、朝よりもずっと元気になった陽が微笑む。速水はその笑顔を見られただけで、なんだか幸せな気分だ。
「ありがとね」
「おう」
「キスする?」
「マジですか」
……幸せは、まだ続くらしい。
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