-blue sky,blue sea- 14
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「風が気持ちいいですね」
「ああ、そうだな」
波が砂を押しては引く、その音だけが響く。時折吹く風に髪を遊ばせ、海を見つめるリアラにベンチに座っていたダンテは頷く。
「今日は楽しかったか?」
「はい、とても。水族館に行ったり、お店を回ったり、バーでカクテルを飲んだり…いつもとは違う体験ができてすごく楽しかったです」
「そうか、喜んでもらえたなら俺も嬉しいよ。またこうやって機会見つけて遠出しような」
「はい!」
満面の笑みで頷くリアラにダンテも優しい笑みを返す。
「さて、と。そろそろ行くか、あんまりのんびりしてると電車に乗り遅れちまうしな」
「はい。あの、ダンテさん」
「ん?」
呼ばれてダンテが顔を上げると、こちらに向かって歩いてきたリアラが目の前で止まる。鞄から小さな包みを取り出すと、自分に向かって両手でそれを差し出してきた。
「ダンテさんにプレゼントです。よかったら開けてみてください」
「俺に?」
「はい」
大きく頷く彼女の手から包みを受け取り、ダンテは包みを開ける。茶色い紙袋から出てきたのは…
「ブレスレット、か?」
姿を現したのは黒い革紐でできたブレスレットで、編み込まれた革と細い革が二本ずつ組み合わさっている。シンプルながらも存在感があった。
リアラは再び頷く。
「はい。革製品を扱っているお店で、ダンテさんがお店の中を見て回っている時に見つけて。ダンテさんに似合うと思ったんです」
…どうですか?少し不安そうに尋ねてくる恋人に、ダンテは頬を緩ませて答える。
「…すごく嬉しい。ありがとな、リアラ」
予想外のことだったが、彼女の気持ちが嬉しい。彼女のためにと計画した今日のデートだったが、自分の方が幸せな気持ちにしてもらっているような、そんな気がする。自分の返事に嬉しそうにぱあっと顔を明るくしたリアラに、ダンテは左腕を差し出す。
「な、これ、着けてくれないか?」
「あ、はい」
ダンテの手からブレスレットを受け取り、リアラは彼の左腕にそれを着ける。着け終わると、ブレスレットを着けたダンテの腕をじっと見て、リアラは柔らかく笑う。
「…うん、すごい似合ってます、ダンテさん」
「…そうか。ありがとな、リアラ」
左手に添えられた彼女の両手にもう片方の手を添え、ダンテはもう一度、目の前の恋人の名前を呼ぶ。
「リアラ」
呼ばれたリアラが顔を上げると彼の顔が間近にあって、驚きが声になる前に唇が重ねられていた。
「これのお礼、な」
ひらひらとブレスレットを着けた左手を振るダンテに、たちまちリアラの顔が真っ赤に染まる。
「〜っっ!!」
「ハハッ、相変わらず初だな、リアラは」
ほら行くぞ、そう言って差し出された左手に、リアラは自分の右手を重ねる。
「…はい」
言いたいことはいろいろとあったが、自分の手を包む大きな手から伝わる温かさにどうでもよくなって、言うのを辞めた。手を握り返すと、彼もぎゅっと握り返してくれて、リアラは微笑む。
二人の後ろ姿を、月の光と波の音だけが見送っていた。
***
2017.12.13