-blue sky,blue sea- 5
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「これで、いいかな…」
少し離れた距離から鏡台の鏡で全身を確認して、リアラは呟く。
ダンテからプレゼントされた白いワンピースに、七分袖の薄めの青のカーディガン。両頬の一房は三つ編みにして後ろにまとめ、青いバレッタで留めている。化粧はしていないが口元くらいは、と以前レディとトリッシュ、三人で出かけた時に二人が買ってくれた薄いピンクのグロスをつけてみた。
(ワンピースだけで行くのは心許ないし、水族館は寒そうだから着てみたけど…)
変だったりはしないだろうか。ただでさえ他の人と出かける時は服装に気を遣うのに、ダンテと、しかもデートと言われてしまえば余計心配になってしまう。
(でも、あまり時間をかけるわけにはいかないし…ダンテさんを待たせちゃうことになるし…)
今朝、自分が起きる頃に彼も起きたのが気配でわかったから、もう準備を済ませて待っているかもしれない。
(これ以上悩んでても仕方ないし…行こう!)
覚悟を決めて、リアラは鏡台に背を向ける。テーブルに置いていた白いショルダーバッグを手に取り、部屋の扉を開けた。
一階への階段を下りている途中、リビングの事務机に腰かけている後ろ姿を見つけた。やはり自分を待っていたらしい、壁の時計に目をやっていた彼は階段を降りる音に気づき、こちらを振り向く。視線がぶつかり、リアラは慌てて残りの階段を下りてダンテに近づく。
「あの、お待たせしてすみません!」
「気にするな、そんなに待ってない。それに、約束の時間までにはまだ余裕があるだろ?」
時計の針は7時55分を指していて、まだ約束の時間までには5分もある。朝食の片付けと出かける準備をしてこの時間なら充分早いだろう。
「女は支度に時間がかかるもんだ。これくらいなら待つさ」
「そう、ですか…」
そう言ってウインクしてみせたダンテに、リアラは頷くので精一杯だった。
ダンテは袖を肘上まで折った爽やかな青色のワイシャツに紺色のジレを合わせ、白いズボンを履いている。アクセントに黒の革のベルトとローファーを合わせていて、かっこいい大人の男性、という感じだった。それに、あまり見ない色合いの服を着ているからか、何だかドキドキしてしまう。
「……」
真正面から見ていることができず、リアラは視線を逸らす。それに首を傾げたダンテだが、すぐに察したのかニヤリと口角が上がる。
「俺がかっこよすぎて直視できないってか?」
「っ!……そう、ですけど……」
間を空けて発せられた小さな言葉に、予想外ではあったが思わず頬が緩んでしまう。手を伸ばしリアラの頬に触れると彼女の視線をこちらに向かせ、顔を近づける。
「…っ!」
音もなく唇が重ねられ、下唇を柔く食まれる。石のように固まってしまったリアラを楽しげに見下ろしながら、ダンテは移ってしまったグロスを舐め取る。
「ん、グロス取れちまったな」
「な、な、な…!!」
ようやく状況を理解して、一気に顔が熱くなる。やっとの思いで口を動かし、リアラは叫ぶ。
「何してるんですか!」
「何って、キスだろ?」
「そういうことじゃなくて!今、な、舐め…!」
「ついちまったからな」
「ティッシュで拭けばよかったじゃないですか!」
「そこまでする程でもないだろ」
程度の問題じゃなくて、とり方の問題なんです!そう言いたかったが、終わりが見えなくなりそうだったので、リアラはキュッと口を引き結ぶ。
「もういいです、行きましょう!」
「グロス、つけ直さないのか?」
「駅に着いてから直します!」
そう言って足早に玄関に向かう恋人にククッと笑みを漏らしながら、ダンテもその後に続いた。