-cold and feel lonely‐ 8
[ 50/66 ]
…何だか温かい。包まっている布団の温かさでもなく、自分の体温でもなくて、別の温かさ。優しくて、安心するような…
「…ん…」
意識が浮上し、リアラは目を覚ます。あれからどのくらいの時間が経ったのだろう、視界は真っ暗でもう夜なのだということだけは分かった。さすがに寝過ぎたな、と反省していたリアラはやけに背中が温かいことに気づく。
(もしかして、寝ている時に感じた温かさってこれ…?)
段々と意識がはっきりしてきて、同時に目も暗闇に慣れてくる。リアラの目に映ったのは、暗闇に微かに浮かび上がる自分の手と腕、そしてそれを包み込むように重ねられた自分より一回りも二回りも大きい手と腕だった。
「…え?」
思わず声が零れ、ぱちぱちと目を瞬く。一人で寝ていたはずなのに誰かがいることに驚くも、この事務所に住んでいるのは自分以外、あと一人しかいない。その事実から導き出される人物の名を、リアラは口にした。
「ダンテさん…?」
本当なら考えるまでもなく気配を読み取れば分かったことだが、起きたばかりのリアラはそこまで頭が回らなかった。後ろにいるのが恋人だと分かった瞬間、リアラの顔が真っ赤に染まる。
(え、え、な、何でダンテさんが…!?もう夜だし、依頼は終わったんだろうけど…)
ぐるぐるとリアラが考え込んでいると、後ろでもぞり、とダンテが身動ぐ。
「ん…」
「っ!」
視界に映る彼の手がぎゅっと自分の手を掴み、離さないとでもいうように顔を後頭部に埋めてくる。思わず肩を震わせると振動が伝わってしまったのか、ダンテが目を覚ました。
「リアラ…?」
「あ、えっと…お帰りなさい、ダンテさん」
「…ん。ただいま、リアラ」
名前を呼ばれたら返事をしないわけにもいかず、視線をさ迷わせつつもリアラは後ろへ顔を向ける。起きたばかりでまだ眠いのか目はうっすらとしか開いていなかったが、リアラの声を聞くと嬉しそうに微笑んだ。
「お仕事、終わったんですね。お疲れ様です」
「ああ」
「…あの、何でここに?」
「ん?リアラの様子を見に来たら、背を丸めて縮こまって眠ってるのが見えて、何だか寂しそうに見えてな。俺がいない間、寂しい思いをさせちまったのかと思って」
「なっ…!」
そんなに寂しそうに見える寝方をしていたのか、自分は。恥ずかしさに顔を背け、口元を手で覆うリアラの肩と腰に手を置き、向かい合うように彼女の身体を反転させたダンテはそのまま彼女を抱きしめる。
「…寂しかったか?」
「……っ、…寂しかった、です…」
ダンテの言葉に息を飲むも、やがてぽつりとリアラは溢した。
あの時、分かった寂しさの理由。彼がーダンテがいなかったから。部屋にいなくても事務所の中にさえいれば気配で彼がいると分かるから、寂しくなんてなかった。けれど、今日は仕事で事務所にもいなかったから、彼の気配を感じることもできなくて。ケルベロスもいるのにまるで独りでいるような、そんな感覚。
…いや、本当は。
「傍にいてほしいって…そう、思ったんです」
今日、ダンテがいなくなって、初めて気がついた。寂しいと、傍にいてほしいと。見えるところにいてほしい、手の届くところにいてほしい。湧き上がる寂しさを隠すように身を縮めて、布団に包まっていた。
自分の胸に顔を埋め、震える声で気持ちを吐き出したリアラに、ダンテは優しく返した。
「…そうか」
宥めるように優しく頭を撫でながら、ダンテは自分のシャツを固く握りしめる華奢な手をそっと包み込む。