-young lady and guard‐ 10
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ロイの言っていた通り、依頼の悪魔はなかなか姿を現さなかった。夜に二人で敷地内を見回っているためか今のところ悪魔に襲われた者はいないが、特に進展はなく、時間だけが過ぎていく。
依頼開始からすでに三日が経っていた。
「あ…もうこんな時間」
腕時計に目をやり、リアラは読んでいた本を閉じる。あと数分もすれば12時、昼食のために依頼主の屋敷へ向かわなければならない。
椅子から立ち上がり、パラソルの下から顔を出したリアラは強い陽射しに目を細める。
(眩し…そろそろ暑くなってくるな…)
7月に入り、気温も上がってきている。もう少しすればあの肌が焼けるような夏の暑さがやってくるのだろう。
(ダンテさんがまだ戻ってきてないけど…12時に昼食だってわかってるし、大丈夫だよね)
つい先程、水を飲んでくると言ってここから離れたダンテはまだ戻ってきていない。屋敷の庭は広く、自分達の滞在しているゲストハウスも行って戻ってくるだけでも4、5分はかかる。戻ってくるまでもう少しかかるだろう。
先に屋敷に向かおうとリアラが歩き出した時だった。
「リアラさん」
自分を呼ぶ声にリアラが後ろを振り返ると、淡い金髪の青年がこちらに向かって手を振っていた。
リアラの目の前まで来ると、青年は笑顔で話しかけてくる。
「こんにちは。今から屋敷に戻るんですか?」
「ええ、もうすぐで昼食の時間ですし。あなたは叔父から招待を受けて来られたんですか?」
「ええ、そうです。この辺りでも随一の富豪であるウィリアムさんの食事会にお招き頂けるなんてとても名誉なことですよ、朝から興奮がおさまらなくって…」
「そうなんですか」
そんなに名誉なことなのかな、お金持ちの考えってわからない…、そう思いながら頷いたリアラに青年は遠慮がちに告げる。
「それで、あの、もしよかったらなんですが…食事会の時、隣りの席に座らせて頂けませんか?」
「え?」
青年の思わぬ言葉にリアラは驚き、足を止める。
食事会では大人数で一つの大きなテーブルを囲む。主催である依頼主とリアラは席が決まっているが招待客は各々好きな席に座るので、リアラの隣は毎回違う客人になる。依頼主の親族として参加しているため話しかけられるのは必然で、苦手な異性であろうと話を合わせなければならない。仕事だと言い聞かせて笑顔で話をするものの、酷く疲れる。
特に断る理由もないし、どうしよう…、そうリアラが思っていた時だった。