-young lady and guard‐ 9
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「はぁ、疲れた…」
「全くだ、初日からこんなに疲れるとは思わなかったぜ」
深いため息をついたリアラに同意し、ダンテは肩を竦める。
日も暮れ、もうすぐ闇が辺りを覆い尽くすであろう時刻、二人は依頼人の屋敷から少し離れた客人用のゲストハウスに戻ってきた。依頼人の屋敷より小さいとはいえ、他に負けない程の豪華さを誇る建物に二人は呆れつつも、しばらくここに滞在することになった。
チラリと隣のリアラを見やったダンテは口角を上げ、けど、と続ける。
「おかげでいいものが見れた。リアラのそんな姿が見れるなんてな」
ダンテの視線の先には、普段絶対着ることのないフリルの付いたかわいらしい白いワンピースに淡い黄色のボレロを着たリアラの姿。
なぜこんな格好をしているかというと、依頼の悪魔は夜に現れるため、昼間は目立たないように変装してほしいとの依頼人からの希望で二人は変装することになったからだ。リアラは依頼人の親戚の娘、ダンテはリアラの護衛として過ごすこととなり、依頼人に知り合いに紹介するからと別荘地の隅から隅まで連れ回され、ようやく終えてきたところだった。
上機嫌なダンテとは裏腹にリアラは不服そうに返す。
「からかわないでください」
「からかってなんかいないさ。かわいいって言ってるんだ」
「…あまり嬉しくないです」
仕事とはいえ好みではない服を着させられているためか、珍しく不機嫌になっている。口をへの字に曲げて顔を逸らすリアラの顎に手を添え、自分の方へと視線を向けさせると、ダンテは瑠璃の瞳を見つめる。
「自分には似合わないって、そう思ってるのか?」
「…っ」
「本当にかわいいし、よく似合ってる。もっと自信を持て。お前は自分を卑下しすぎだ」
「ダンテ、さん…」
「それに、俺からしたらお前は何着たって魅力的だ」
そう言ってダンテが笑うと、途端に顔を赤く染め、リアラは顔を逸らす。
「リアラ?」
「あの、あの、ダンテさん、顔、近いです、ちょっと離れて…」
いつも以上に真っ赤な顔で胸を押すリアラにダンテは首を傾げるが、あることに思い当たり、意地悪な笑みを浮かべる。
「何だ、いつもと違うから見慣れないのか?」
「っ!」
びくりと肩を震わせるリアラの姿に、ダンテは確信する。
護衛ということで黒いスーツに身を包んだダンテは、普段は伸ばしっぱなしの髭を剃り、前髪をワックスで上げている。依頼人に富豪の護衛らしくしてほしいと言われ渋々やったのだが、その姿がリアラには見慣れなかったようだ。
わしゃわしゃとリアラの頭を掻き回し、上機嫌でダンテは言う。
「そうかそうか、今の俺は直視できないくらいかっこいいか」
「…調子に乗らないでください」
「恋人のかわいい反応見たら調子にも乗るさ。それとな…」
リアラの顎を捉え、再び自分の方へと向けさせるとダンテは続ける。
「明日からはお嬢様と護衛の関係だ。敬語を使わないように気をつけてくださいね、お嬢様?」
「…ええ」
ぎこちなくも頷いたリアラに、ダンテは満足気に笑うのだった。