-scar‐ 10
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「…ごめんな、あの時、いきなり後ろから抱きしめて」
その言葉にリアラは何のことかすぐに察し、ふるふると首を振る。
「そんな、謝ることじゃないですよ。気にしてないから、大丈夫です」
「…そうか」
それきり黙ってしまったダンテに、リアラが静かに尋ねた。
「…何か、悩み事でもあるんですか?」
「いや、そういうのじゃない。気にするな」
苦笑してダンテはリアラの頭を撫でるが、リアラにはダンテが無理をして笑っているように見えた。俯いてしまったリアラに、ダンテは首を傾げる。
「リアラ?」
「…昨日、ネロに相談されたんです。時々だけど、雨が降ってる時にダンテさんが何かを思い出すように遠くを見つめて悲しそうな顔をする、って。雨の日に嫌な思い出があるのかと思って、って」
その言葉にダンテは目を見開く。顔を上げ、リアラはダンテを見つめる。
「…あの雨の日、私が死にかけたから。それを思い出してしまうからですか?」
「そ、れは…」
「…やっぱり、私のせいなんですね…」
悲しそうに目を伏せるリアラ。違う。そんな顔をさせたいわけじゃない。腕を伸ばし、ダンテはリアラを抱きしめる。
「ダンテさん?」
「違うんだ、俺が…俺が、弱いから…」
抱きしめる腕に力が籠る。胸に寄りかかるリアラの頭に手を添えながら、ダンテはポツリポツリと話し出す。
「二十年前、テメンニグルの頂上でバージルと戦った時…あの時も雨だった。久々の再会だった。とはいえ、それを喜んで話せるような状況じゃなかったし、すぐ殺し合いになっちまったけどな。…昔程思い返すことはなくなったが、今でも鮮明に思い出せる」
「……」
「確かに、あの雨の日にお前が死にかけたことも理由としてはある。…けどな、元々こっちのことがあったから、雨の日はどうしても思い出しちまうんだよ」
だから、な。
「お前のせいじゃない。俺が、弱いからだ。あれだけお前に自分を許してやれと言っておきながら、俺自身が自分を許せないでいる。…未だに、乗り越えられないでいる」
腕の力を緩め、リアラと視線を合わせるとダンテは悲しそうに微笑む。
「…ごめんな、こんな弱い奴で」
弱々しく呟かれた言葉に、リアラがゆっくりと口を開いた。