-scar‐ 8
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「雨、止みませんね。迎えに来て正解です」
「…そうだな」
「傘、役に立ちましたね。でも、ダンテさんの言う通り、もう少し大きいやつでもよかったかな…」
「大きいのだと濡れる心配はないが、お前が持つのが大変そうだったからな、それでよかったんじゃないか?」
「でも、こうやって迎えに来た時に困りますよ。二人で入ると小さいですし」
「俺は少しくらい濡れたって大丈夫だ、リアラが風邪を引かないならいい」
「だめですよ、それだとダンテさんが風邪を引いちゃいます!」
自分を心配するがゆえに怒るリアラに、ダンテは口元を綻ばせる。
「もう…。早く事務所に帰りましょう、ネロも待ってますよ」
「そうだな」
ダンテが頷くのを確認してから、リアラは閉じていた傘を開く。
「狭いと思いますけど、濡れないようにちゃんと…」
入ってくださいね、そう続くはずだった言葉は音にならなかった。−ダンテが、後ろから寄りかかるようにして自分を抱きしめてきたから。
「…ダンテさん?」
「……」
呼びかけるも、返事は返ってこない。代わりに身体を包む腕の力が強くなったのを感じて、リアラはそっと視線を移す。肩に乗せられた頭は伏せられていて、視界に広がるのは銀色の髪だけ。表情は窺えなかった。
リアラはそっと左手を伸ばす。
「…少ししたら帰りましょうね」
「…ああ」
宥めるように優しくゆっくりと自分の頭を撫でる手に、ダンテは目を閉じて頷いた。