あの頃 2

一日の中でどの時間帯が好き?って聞かれたら、今みたいな夕暮れ時だ、って答える。
もちろん朝の爽やかな空気も、昼間の真っ青な空も、夜の静かな雰囲気も好きだから、強いて言うならって感じだけど。
でも、優しいオレンジ色が街を染める風景は、小さい頃から大好きだった。


そんな事を考えながら一人歩く帰り道。
今晩は父さんの店に行く予定は無いし、夕食は簡単なのでいいかな。パスタとか。
…でもやっぱり店行こうかな。家で一人留守番とか暇すぎる。あたしより父さんが作るご飯の方が遥かに美味しいし。
夜に一人で出歩くと父さんは怒るけど、家から店までほんの10分くらいの距離だから大丈夫だと思う。そりゃ、ここら辺はそんなに治安がいいって訳じゃないし、店も夜の時は酔っ払った人が騒ぎ起こしたりするけどさ。
…あぁ、でも最近はそういうの、めっきり少なくなったっけ。あいつ…ダンテが店の常連になってからは。




"便利屋『Devil May Cry』のダンテ"といえば、この街の人間なら大体は聞いたことのある名前だ。あたしも知ってる。店を構えているのがあたしが住んでる所からちょっと遠いスラムらしいので、本人を見たことはなかったんだけど。ほんの1ヶ月前までは。

初めて会ったのは、ダンテがレディと一緒に父さんの店に来た時だった。
レディはそれよりも前からの仲のいい常連さんで、一人っ子で母さんもいないあたしにとってはお姉ちゃんみたいな感じの人。
そんな彼女が男の人と一緒なのが珍しかったから『まさか恋人?』とか思ってしまった(後からレディにそう言ったら『なにバカなこと言ってんの。腐れ縁よ、腐れ縁』って頬をつねられたけど)。
あたしはその時がダンテの初来店だと思ってたんだけど、実際はもう少し前からちょくちょく来てたらしく、しかも父さんとレディの3人でけっこう仲良くなってた。

それにしても、父さんにお互い紹介された後ダンテに言われた言葉が
「小学生が夜にこんな所にいて大丈夫か?」
だったのにはだいぶムカついた。ふざけんな、そこまで子供じゃないっての。なんでこう、あたしは実際より子供に見られがちなんだろうか。そりゃ昔から身長は小さいけどさ。
あと、ストロベリーサンデー作れるか?なんて聞くから作ってやったら、すっごい喜んで食べていた。父さんと同じ年くらいのおっさんだけど、見かけによらず甘党らしい。それからは店のメニューにストロベリーサンデーが追加されたけど、今のところダンテ以外に頼む人はいないらしい。

そんな訳で、今じゃ店の手伝いに行くと常にダンテに会うようになってる。いつも何かしらちょっかい出されるのがイラつくけど、不思議とダンテの側って居心地がいいんだ。
…たぶん、父さんと雰囲気がどこか似ているからだと思う。父さんの方がずっとカッコいいけど。
だから、店で父さんとダンテとレディと過ごす時が、最近のあたしにとって一番の楽しみになっていた。




あたしの家は街外れの方にある。もうすぐ着くってあたりに差し掛かった時。
いきなり、着ていたパーカーのフードが視界を塞いだ。


「!? な、なに…」


慌ててフードを取って辺りを見渡す。めちゃくちゃビビったんだけど。
そしたら、後ろから笑い声。ものすごく聞き覚えのある声だ。


「ははは!そんなに驚くとは思わなかったぜ」

「…ダンテ…なにすんだよもう」

「おいおい睨むなって」


銀髪に真っ赤なコートの、すっかり見慣れた姿が笑う。ホントにビビった。全然気付かなかった。
っていうか、ダンテの事を考えてた時のご本人登場とか。どんなタイミングだよ。


「なんか、店以外で会うのも珍しいね」

「そういやそうだな。ティナは家か店に行く途中か?」

「うん、家帰る途中。ダンテは今日も店行くの?」

「あー、いや…今日は行けねぇな。というか、2、3日遠出してくるからその間はムリだ」

「あ、そうなんだ。なになに、旅行とか?今日から出かけんの?」

「おう、今からな。旅行じゃなくて仕事」

「…え?仕事?」


思わず耳を疑った。いや、ダンテが便利屋だっていうのは知ってるけどさ。
だってこいつ、週に絶対4日は父さんの店に来るんだよ?前にちゃんと仕事してるのか、って聞いた時なんか
『俺の店は週休6日なんだよ』
って返されたから、それは経営成り立ってるのかとちょっと本気で心配になった。
そんなダンテの口から、"仕事"なんて言葉が…!

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