mai tai 1

パラレルワールドのダンテ(髭付き)がやってきた。
しかも彼女付きで、だ。


「ふぅ……」

「鈴、大丈夫?」

「ん?」


キッチンに立つ私の側で、心配そうな顔でこちらを見上げるネロくんに苦笑する。


「ん、大丈夫。気にしないで」

「それにしてもすごい剣幕だったな」


事務所のソファーで珈琲片手にくつろぐ髭さんに対し、同じくソファーに座った青い髪のリアラちゃんはしょんぼりとしている。
犬耳が垂れている幻覚が見えそうだ。


「すみません、私知らなくて」

「いいよいいよ。気にしないで」


苦笑しながら泡立て器から手を離し、ひらひらと手を振る。
事の始まりは、髭さんとリアラちゃんがやってきた直後に遡る。


「あ、鈴さん!」

「リアラちゃん!?」

「知り合いか?」


怪訝な顔をする髭さんに、こくりとリアラちゃんが頷く。


「はい。前話したの覚えていますか?夢の中であったお兄ちゃんの幼馴染みで、誕生日に歌を送った人です」

「ああ」


これが、不味かった。


「色々突っ込みたいが、鈴」

「はい」

「誕生日、というのはどういうことだ?」


双子の鋭い視線に身を竦ませる。


「今まで一緒だった俺等には内緒で、夢の中であったお嬢さんには教えたのか?」

「いや、これには訳が」

「そんなに信用がないとでも?」

「いや違うんですそんなんじゃなくて本当に」


その後たっぷりと1時間以上は説教され、そのまま二人は買い物に行ってくると言って財布を片手に出て行ってしまった。
ケーキだけは作っておけ、という台詞だけを残して。


「なんで誕生日を隠していたんだ?」

「色々ありまして。誕生日と言っても本当の誕生日ではないと言いますか、ちょっと面倒なことになるので黙っていたのです」

「ふぅん」


知っているのは前世の誕生日で、こちらの『私』に迷惑が掛からないように黙っていたと言ってもよく分からないだろう。
遠回しな表現に気付いてくれたのか、それ以上聞かずカップに口をつけた髭さんに対し、リアラちゃんはこてりと首を傾げる。


「本当の誕生日じゃない?」

「ああ、私孤児みたいなので、親の顔も生まれた年も知らないの。だから」

「あ、ごめんなさい……」

「ああ、気にしないで!そんな重く捉えなくていいから!一応養父みたいなのもいるし」

「随分あやふやな言い方だな」

「悪魔でぶっ飛んでいた方で、私を拾ってスパーダさんに世話を押し付けたのが始まりなんです。そちらに私が居ないのなら、まだ魔界で元気に過ごしているかもしれませんね」

「どんな奴なんだ?」

「人型は黒の長髪でシャアみたいなマスクをつけた姿。悪魔時は鎧を纏ったような銀色の大きな鮫です」

「名前は?」

「言ったら人間界に来た時に倒しにくくなるかもしれませんよ?と言っても、本人の話だと人間界は住み心地が悪いようで、普段は領地で椅子にどっかり座っているみたいです」


今考えたらアーカードの旦那みたいだな、なんて思う。
いや、旦那の方がぶっ飛んでいるか。


「鈴もお父さんが悪魔だったの?」

「そだよー」

「じゃあ鈴もとうさんやダンテといっしょ?」

「残念ながら、私は人間だな」


小さく笑いながら横にいるネロくんの頭を撫でる。


「悪魔が怖くないのですか?」

「怖いよ。でももっと怖いものを視てる」


そう言って、静かに目を細める。
部屋の至る所に走る歪な線。
それは自分の手にも、ネロくんの身体にも、視界を埋め尽くすようにある。


「それに私は神様やら妖怪やら幽霊が文化に浸透している島国の人間なんです。悪魔なんてそのうちの一つでしょう?」

「ふっ、それもそうだな」

「よっと」


型に流し込んだ生地を二つ、余熱したオーブンに入れて息を吐く。
さて、飾り付け頑張りましょうかね。

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