狼とうさぎの1週間 51
2人はキッチンの中で、睨み合って立っている。
バトルでも始まりそうだが、その実、違う。
その中間にポツンと置かれたコショウの瓶を睨んでいるだけである。
「どっちが先にしましょうか?」
「じゃあ、リアラお姉ちゃんが先にやっちゃって」
「わかったわ、準備はいい?」
ゆっくりとした動きでコショウを手にしたリアラは、ディーヴァに向かってそれを勢いよく振りおろした。
コショウがディーヴァの周りに四散する。
その独特の香りは普段は食欲をそそるものではあるが、今は鼻の奥を刺激してやまない。
ムズムズ感を我慢することなくディーヴァはくしゃみした。
「ふぇっくちょんっ!」
だが、くしゃみをしたのにうさぎの耳も、しっぽも生える気配は微塵も感じられなかった。
「う〜、鼻がムズムズする〜」
ただひたすらくしゃみを続けているだけである。
鼻の奥をそうとう刺激したのか、少し辛そうであったが、リアラは呪いが解けているかどうか…そちらを優先することにした。
「思った通り、呪いは解けてるみたい。ディーヴァちゃん、これで若にいじめられなくてすむわね!さ、次は私の番よ」
「でもこれ結構つらいよ?あたしが試したんだしもういいんじゃないかな。それに元々嗅覚の鋭いリアラお姉ちゃんにはちょっとおすすめできないよー…」
涙目になって両手で鼻をおさえながら辞めるよう進言する。
だが、律儀なリアラはやる気満々だった。
「でも、ディーヴァちゃんだけって言うのは不公平だわ」
持っていたコショウの瓶をディーヴァに握らせたリアラは、その行動を待った。
「うん、わかった…」
リアラもそうだっただろうが、ディーヴァもこんなことにコショウを使うのは始めてである。
ディーヴァも覚悟を決めて、リアラに向かってコショウを振りかけた。
ディーヴァの時と同じようにコショウが空気中に撒き散らされた。
香りが嗅覚の鋭いリアラの鼻にダイレクトに伝わってきて、その能力の高さからか粘膜がヒリヒリしてきた。
鼻が使い物にならなくなりそうなそれを我慢したリアラは直後にくしゃみを連発した。
「くしゅっ…くしゅっ、くしゅん!」
その耳にもお尻にもやはり半獣化の兆候は見られない。
呪いは完全に解けたようだった。
「呪い、やっぱり解けてるね」
「うん、それにしてもコショウってこんなにつらいのね。初めて知ったわ」
リアラは苦笑してコショウを調味料置き場に戻した。
まだ鼻がヒリヒリツンツンしていて、今悪魔の居場所を嗅ぎとれとか言われたら絶対できないだろう。
そして、よほど嬉しいのかディーヴァはリアラの手を取り飛び上がって喜びを表現した。
半獣化は終わったというのに、ピョンピョン飛び上がる様はうさぎのようだった。
「うさ耳生えない!やった!!」
「うん、私もちゃんと呪いが解けているみたいでほっとしたよ」
うさぎではなく狼だが、リアラも一緒になって跳び跳ねて喜んだ。
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