狼とうさぎの1週間 2

「あちぃー…暑い暑い暑ーい!!」

うだるような暑さの中、耐えきれなくなった若は両手を広げて叫んだ。
げんなりした表情の髭が寝ころんだままひらひらと手を動かし抗議する。

「おい、それ以上言うな。余計暑くなるだろ」

外ではなく事務所の中だと言うのに蜃気楼がゆらめいて見えそうなほどの暑さである。
もちろんそんな中でトレードマークのコートは着ていられない。
2人はすでに上半身裸だ。

「私なんか氷属性だから余計つらいよ、技使って冷やしたいけど暑すぎて力も使えないし。男の人はトップスを脱げるからいいね」

「リアラも脱げばいいじゃねぇか」

「そうだそうだー」

「ダンテさん無茶言わないでください。あと若も」

少々恨めしそうに男2人を見たリアラはもうすでにアイスのようになっている。
くったりとして溶けてしまいそうなリアラにパタパタと扇いで風を送ってやるディーヴァは暑さがつらすぎて何も言わなかったが、その額には汗が滴り落ちていた。

「ディーヴァ、見た目だけでも涼しくなるように服脱いでくれよ」

「あたしだって無理だよ」

ディーヴァもしゃべるのすら億劫だと言うように短く返す。
若のディーヴァへのセクハラ発言にはいつもリアラが壁に氷柱で縫い留めるが、今はそんな気力すら残っていなかった。

「…なんでここエアコンないんだっけか」

ぼーっとした目で髭は天井を見やった。
天井近くの壁にはエアコンの設置されていた跡だけが残っている。

「それはダンテさんが壊しちゃったからです」

「そうだったか?」

リアラがしれっと言い切る。
つい先日まではこの事務所にもエアコンがあって快適な夏を過ごしていたのだが、髭と若がちょっとした喧嘩をした際に壊してしまったのだ。
本当なら修理する予定でいたのだが、そこにきて髭と若が依頼先で公共物をこわしてしまったことが重なる。
少し怒りっぽいが攻撃手段のないディーヴァだけならいざ知らず、普段滅多に怒ることのないリアラも、この時ばかりは怒った。
かくして2人のダンテはリアラの『アイシクル』と『ダイヤモンド・ダスト』の餌食となり、壁に並んだ悪魔の仲間入りを果たしたのである。
もちろん報酬は全て公共物の修理へと消え、生活を切り詰めなくてはいけなくなった今、修理費があるはずもない。
リアラとディーヴァは壁に縫い付けられ、氷漬けになった2人を背後にがっくりとうなだれたのだった。

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