スイーツまでの道のりは長い 17

「って言っても、ディーヴァが食べ終わるまでは暇ね」
「食べ終えるって…アレ食いきれるのかよ」
「あー……。制限時間までに食べ終わるんじゃね?『A:ディーヴァだから』」
「「妙な説得力を感じる」」

いくらスイーツ好きとはいえ、まさかこの量を食べきれるわけが。
でも、若の言う通り、ディーヴァならやってのける!そんな気がする。
そこに痺れないし憧れないけども。

「もぐもぐ…うん、食べきれるに決まってるじゃんかー。
あ、でも万が一の時の為にちゃんとお金も用意してあるよ」
「あったりまえじゃボケェ!」
「無銭飲食程度で監獄行きになったら恥ずかしさで死ねるな…」

はあ…とため息を吐き出す髭に、うんうん、と頷く若とリアラ。
髭とリアラ組に、ディーヴァはとある提案をした。

「じゃあ、2人ともウィンドウショッピングしてくる?
制限時間があと45分くらいだから…食べ終わるまでの30分?くらいで戻ってきてくれればいいよ」
「あと30分でこの量食べ切る気かよ…。いい加減太るぞ!」
「太りません!」
「あっそ、太ってもオレは知らないからな。
いや、太ったらベッドの上で運動に付き合ってやるよ」
「だから太らないって言ってるでしょ!」

実は若もディーヴァがここまでスイーツを食べまくる姿を見るのは初めてだったようだ。
食べると言うよりすでに飲み込むに近い。
ディーヴァの姿が蛇女の魔獣の、食事風景をちょっぴりだけ連想させた。

「もう今日は、ウィンドウショッピングはいい…かな……?」
「腹ごなしになると思ったが、もうジャングルの中で散々見て歩いたしな。
ここでおとなしく消化のため食休みさせてもらうぜ」

胃の中がはちきれそうだ。
これで歩くのは逆に地獄…せっかく街を見て歩くにもひとつも楽しめる気がしない。
ウィンドウショッピングデートは、次回に持ち越しだ。

「人が食べてるの見てるだけって辛くない?なんか頼もうか?」
「「「ほんと勘弁してください」」」

なんだろう、食欲を際限なく増加させる怪しい薬でも飲んでいるのかこの子は。
ガラス張りの開放的な店内で、リアラは頬杖をついて外に視線を移し、その場から現実逃避した。

バチバチッ!ボンッ!!
メロンソーダの弾ける音とは違う、オーブンが爆発するような音でもない。
そんな音が目の前で聞こえ、リアラは目を開いた。

「太ってないか肉つまんだだけだろが!」
「だから太ってないってば!デリカシーのない!
それになーんで、お腹じゃなくて胸のお肉つまむのよ!変態!」
「なんでかなー?いつも通り柔らかかったですごちそうさまだぜ!」


「また雷落とされたい?」
「ハッハー!お前意図して落とせねーだろが」

…いつのまにか居眠りしていたようだ。
目の前には空っぽのドデカい金魚鉢、ディーヴァはすべて食べ終えたようだ。すごい。
そしてその向こうには、まっくろくろすけに焦げた若。そしてプンプン怒っているディーヴァの姿が。
十中八九、何か良からぬことをしでかして、とうとうディーヴァの物理的な雷が落ちたのだろう。いつも通りのネタで言い争っているのがその証拠だ。

時間にして眠っていたのは10分ちょっとか。
なんで眠ってしまったのだろう。疲れで気が緩んでいたのか…?
ああ、そうか。
入ってくる眩しすぎない陽光、控えめにクラシックの流れる店内、そして適度な…ううん、過度な満腹感。
そして隣から伝うあたたかさ。
これなら眠ってしまってもおかしくない。

…うん?隣から伝うあたたかさ?

顔を横に向けるとその振動で起きたか、パートナーの顔が至近距離にあって、青い瞳が1センチ先のすぐそこだった。

「うん……、ああリアラ起きたか」
「え、あ…、なっ!?」

髭も寝起きか、掠れた声が耳元をくすぐる。
…よくよく見れば、自分は髭の体に身を預け、髭はリアラの肩に手を回して密着していたらしい。
リアラは真っ赤になって慌てるが、密着状態からは解放されなかった。

「あっ、2人とも起きたぁ?お腹いっぱいになって寝ちゃったんでしょ。
気持ちよさそうに寝てたよ〜」
「うちのリアラが寝ちまって悪いな。しかもつられて俺も居眠りこいちまったぜ。
俺らが寝てる間に食い終えたみたいだが、何もないよな」

会計ボードの傍に、完食おめでとうございますのカードがある。そしてリアラが起きる原因となった若のナリ。
無事食べ終えてスイーツがタダになった事と、若がディーヴァに怒られた事だけはわかった。

「特になんもねぇが、ただ、ひとつだけ…」
「何があった?」

何かしらはあったらしい。
若が鋭い表情をするので、合わせて髭も鋭い表情を作る。

「寝顔の写真も撮らせていただきましたァン!」
「そんな事だろうと思ったもちろん買うぜ」
「即答かよ」

またか。また無許可でそんな写真を!
髭は気がついていたらしいし、若は実行犯。
ディーヴァに至ってはニコニコしていることから、わかってて黙っていたな。

少々むくれてみせるリアラを連れ、4人はようやく帰り支度をして帰路に着いた。
帰路、とはいえとりあえずリアラの家に、だが。

一休みにと紅茶を淹れて4人それぞれ読書タイム(若はディーヴァいじりに勤しんでいるが)に入ろうとすれば。

「そうそう。テイクアウトでクレームブリュレ買っちゃったんだ」
「えっ!まだ食べるの……?」
「お土産は別腹よ!あのお店ね、テイクアウトも美味しいもの多いんだぁ。
中でもオススメはこの自分で表面焼くクレームブリュレ」

「そこで人のお尻触ってる変態さん、表面焼いて」
「はあ?くつろいでる人使うなよ休ませろ。んで自分で焼けよオレ食わないし」
「ここリアラさんのおうち。それに人じゃないじゃん魔獣じゃん。
あたしが食べるんだからはい仕事」
「くっころ」

ブツブツ言いながらも言われた通り、小さく炎をともし、それで表面を焼いていく若。
徐々に黒く色づくにつれ、甘くていい香りが周りに広がる。
ただし、お腹いっぱいな者にとってはこの匂いはキツかった。

「おい俺はいらないからな!?」
「はいはい、なんとなくわかってました!
あ、リアラさんも食べる?食べるなら焼くよー」
「いいえ、今日はいいわ……ディーヴァが持ち帰って食べなさい」
「そーお?」

首を傾げると、ディーヴァは焼かれたクレームブリュレの表面のパリパリを崩し、そして美味しそうに食べる。
冷めないうちに食べるのが一番いい。
きっと美味しいだろうそれ。…今は食べたくないが。
その姿を、微笑ましくもうんざりと見る3人。

「私、ディーヴァの一番すごい魔法って、あれだけ食べてもまだまだ食べられる驚異の…ううん、恐怖の胃袋な気がするわ」
「それ絶対魔法じゃねえ!」
「一種の魔法、だろ」

見ているだけで胸焼けだが、なんだかんだ言っていても、美味しそうに頬張るディーヴァの姿を見る事は若にとっての幸せの一つ。
若の視線は、パートナーというより我が子の成長を目を細めて見守る親に見える。

「…まあ、スイーツ巡り二度と一緒に行かないとか、友人付き合いやめるとかは勘弁してくれよ?
ディーヴァ、そうとう楽しんでたみたいだしな」
「わかってるわ。
でも次は私が街まで道案内する。それだけは譲れないから、そこのところはよろしくね」

二度と迷いたくない。
リアラはディーヴァの保護者でもある若に、強く、強く言い放った。



***
『ぱらのいあ』の望月闇姫様から頂きました、うちの子の誕生日お祝い小説です。魔女パロであちらの夢主・ディーヴァちゃんがお菓子大好き&うちの子がたまにお菓子食べに連れ出される設定だったので、その設定に沿うような内容をリクエストしました。
お菓子食べるまでにどれだけの大冒険をしているの…!側から見ている分には楽しそうですが、実際そうなっている身としてはたまったものではないんでしょうね(^ ^;)
あちらの二人のやりとりも若とおじさんの兄弟のやりとりも楽しかったですが、夢主とおじさんのやりとりがすごくよかったです…!うう、甘ーい!!おじさんとあんなやりとり…羨ましい!!戦闘シーンも私が思いつかないような技ですごいなあと思います、参考にさせて頂きます…!
闇姫様、ありがとうございました!

[ 127/130 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -