スイーツまでの道のりは長い 16

リスの魔獣が逃げた先は、高い木に空いた、うろの中。
袋の鼠、に近い。
しかし簡単に捕まえる事も出来なければ、逃げる事も出来ない場所。
見上げれば顔をちょろりと出してこちらの様子を伺っている。
…鍵さえ返してくれれば、それでいいというに。

「まさかの木のうろの中かよ!」
「しかもあんなに高いところ…。
飛んでいくのはいいけれど、枝が邪魔をして空中から捕まえるのは難しそうね」
「しかもあの木は頑丈すぎて燃えないやつだぜ。若の炎も効かないだろうな」
「…あたしの全てを破壊する魔法使う?
火の七日間みたいにこの辺一帯焼き野原になるかもしれないけど」
「「「それはいいです」」」

魔界とはいえ森林破壊はしたくない。
無駄な殺生や破壊は、いくらリアラやディーヴァ達とはいえ、『WANTED!!』扱いだ。
追う側ならともかく、追われる身になるのだけは御免だ。

「ふむ、あんなちぃせえ穴に逃げ込まれたんじゃ、どうしようもないな…。
さて、どうするか。罠でも作るか?」
「そんなことしたらいつまで経ってもスイーツ食べに行けない…。やっぱり火の七日間を、」
「それはダメだって。スイーツはまた今度にすればいいでしょう?」
「や。あたしスイーツは諦めない。S造だってそこで諦めんなって言ってるじゃん」
「またS造かよ。…って、ちぃせえ、穴…?そういえば兄貴小さくなれるじゃねえか」
「そういえばそうだ!ちっちゃいとらさん!!」
「あ、忘れてたぜ」
「なるほど、小さくなって木を登り、そして捕まえる…。穴のある反対側から攻めていけば、確実に捕らえられるわ!」

人型から、大きな魔獣姿へ。
大きな魔獣から、肩乗りサイズの小さな虎へと、姿を変える髭。その際またもディーヴァの手にとっ捕まってグリグリされたのは、いうまでもない。
はてさて、3人は下で騒ぎ立ててリスに注目させると、その間にスルスルと音も立てず木を登った髭は、獲物を狩る時のように穴に近づく。
リスの魔獣が気付いた時にはもう遅く、髭に首根っこを噛みつかれ、捕らえられていた。

「ぢぢぢぢぢぢっ」
「おらおらおらおら、吐け吐け吐け吐け」
「わああ、かわいそうだよ!」
「これだけ俺たちを振り回したんだ、物理的に振り回されても文句は言えないだろ」
「それはそうだけども、パッと見は弱いものいじめしてる構図よねぇ」

タッチ交代で若の手に渡った魔獣は、首根っこを掴まれ、ブンブンと振り回されていた。
遠心力が働き、頬袋の中身さえ移動し、ついには口の中から鍵が飛び出す。

「きったねぇ。ヨダレまみれじゃねぇか…」

ぽーん、と飛び出したそれを、髭がうまくキャッチしたが、その状態に至極嫌そうな顔である。
特質して悪い事をしたわけではないリス魔獣に用はない。若がおとなしく手を離してやれば、ふらふらになりながらも一目散にジャングルの奥へ逃げていった。

「リスの魔獣さん、ごめんねー!さよーならぁー!!」

ディーヴァは声を張り上げてリス魔獣に謝罪しながら、髭が持っている鍵を拭く。
そのまま流れるように、南京錠の鍵穴に鍵を差し込むのだった。

「あたしの心、アンロック☆」
「また違うネタ使いやがって…!それは『しゅご、」
「それ以上はシッ!」

かちゃり、鍵が開いたと同時、解けるように消えゆく扉を覆う鎖の山。
ギギギと、物々しい金属音を奏でながら開いた扉の向こうはーー。

「ちゃあんと常界に繋がってるわ!」
「しかもちょうどスイーツ店の真ん前だよ〜、ヤッタネ!」
「やれやれやっとかよぉ…」
「疲れた…ディーヴァに巻き込まれた感すごいぜ……」

むしろ、出たところが行く予定のスイーツの店。まるでディーヴァに最初から仕組まれた大冒険のような気分に陥る。

「はあ…さすがに私もお腹は空いたけど、スイーツは諦めてたわ。
なのに、ディーヴァったらひとつも諦めてなかったのね。その不屈の精神は尊敬に値するわ」
「スイーツに限り、だけどなー」

スキップるんるんで店の中に先に入っていくディーヴァを追い、3人はようやく一息つく。
スペシャル挑戦メニューひとぉーつ!あとドリンクよっつ!と高らかに注文するディーヴァの元気の良さを呆れつつ、お冷やで喉の渇きを潤す。
…嗚呼、水が美味い。

しかして届いたご注文の品はというと。

「きゃー!美味しそう!さあ食べよ食べよ!」

美味しそうではある。が、嬉しがるディーヴァと裏腹に、3人の口元がひきつる。

アロワナでも入りそうなほどとてつもなく巨大な金魚鉢の器に、これでもかと積まれたスポンジの山、寒天の山。
こんもり盛られた生クリーム、あんこ、チョコソースにフルーツソース、数種類のアイス、そしてドロドロかかった練乳。
トッピングがこれまたすごい。どうやって集めたのかわからない季節外れなものや、王道の苺、大量に飾られ、パイやチョコレート、マカロンが刺さっていた。
食べられないものだろうが、極め付けの大輪の花もアクセントに飾られている。
届いたアイスティーと比較すると、かなりの対比。口がひきつるのもわかるだろう。

「す、すごい量ね…」
「予想以上だな…。すげぇ破壊力ある見た目だぜ」
「つーか、フルーツ餡蜜なのかぱふぇなのかケーキなのかハッキリしろや」

あむあむ食べまくるディーヴァに倣い、3人もそれぞれ口に運ぶ。
あまりしつこくなくて、あっさりしたクリームや、瑞々しいフルーツがとても、そうとても美味しかった。
だがこの量はさすがに多い。多すぎる…!

「くっ、まさかこんなにすごいとはな」
「ね、すごい美味しいでしょ?」
「御見逸れいたしましたっ!
でも、味のことじゃねぇよ。オレ達はな、量がすごい多いって言ってんだ!ディーヴァの腹の中どうなってんだよ、ブラックホールか!!」

美味しいものを食べておいて、その量の多さに怒って吠える若。りっふじーん!
だが、その気持ちはよくわかる。リアラも挙手した。

「ごめんなさい、私食べきれないわ。美味しかったけどこの辺でリタイアさせて…?」
「えー…ダブルダンテは?」
「だからオレももういい!食えねーわ、あほ!」
「悪い、俺もこの通り腹いっぱいだ。見てるのもキッツい。腹の中がパンパンだぜ。
あとはコーヒーだけ飲ませてもらうな」
「そうなんだ…。じゃあ、あたし独り占めしちゃうね」

残念そうに眉尻を落とすと、ディーヴァはスプーンとフォークを装備し直し、目の前の獲物へ嬉々として取り掛かった。

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