スイーツまでの道のりは長い 14

「ところでリアラ、太もも…気がついてないのか?」
「…え?
きゃあ!?」

そういえば太もも付近がいつもよりスースーする。
髭の言葉に太ももに視線をやれば、服が切り裂かれ、大きく露出してしまっていた。
ショーツまで見え放題!とはいかなくも、なんと際どいことか!

「ひゅー、絶景!」
「あ゛?」

炎の中、若が口笛を吹く。…そこからでもばっちり見えているのか。
ぐりん!と若の方へ首を向けた髭は、若を噛み殺しそうな猛虎の顔をしていた。

「げっ。と、とりあえず、ディーヴァのこのリボンをおつかいくだせぇ…!」
「ホォー、若にしては気がきくじゃねぇか」

ディーヴァの杖に巻かれた、馬鹿でかいだけのただのオサレリボン。
それをしゅるりと解いて、若はリアラの太ももが見えぬようにするよう、髭に投げてよこした。
渡されたそれを、リアラはもごもごと感謝の言葉を口にしながら太ももに巻く。
輝く柔肌は、赤いリボンによってようやく隠れ、リアラ本人だけでなく髭も、そして若も心底ホッとした。

「ふう、さてさて」

鋭い視線を花々へと向ける髭。

「俺と同じモン使うだけでも腹立たしくて仕方なかったが、それを俺のリアラに向けるたぁ、何されても文句はねぇよな?
そしてリアラの太ももを露出させたその所業、万死に値する…!!」

なかなか凶悪な顔をしている。ぱっと見、悪役と言われてもおかしくないだろう。
そして、髭が攻撃をするのか、と思った若は、次に放たれた言葉に驚きを隠せなかった。

「若お前行け!あいつら燃やしちまえ!」
「え、オレ…?オレなの!?
今万死に値するとか言ってなかったかお兄ちゃん!?
オレの炎使ったらリス魔獣まで焦げるかも知んねーぜ!?」

あのリスの魔獣は、今は花々のどこかに隠れているようだ。
この花畑にあるのは、ラフレシアだけではなく、雑草もあれば道端に咲き誇る花もあり、魔界特有の花もたくさん。
これらを炎で一掃すれば、あちらにも被害が出ること間違いなしだ。

「ああ!ラフレシアどもの奇襲を隠れ蓑にしてたみてぇだが、かわいそうとか言ってられん。全部……、全部!燃やせっ!!」
「えー、ちょっとそれはやりすぎなんじゃね、」
「リアラの肌を見たお前の目を先に潰してやってもいいんだぜ」
「アッハイワカリマシタ」

恐ろしい事を言われ、おとなしくいうことを聞く若。
その指先に、技の為の高温の炎が灯る。

「ちょっと…!いくら際どいところまで見えてたとはいえ、戦い上の不可抗力でしょう?
少しは落ち着いて…?貴方、この中では年長者でもあるのよ」
「俺以外に肌を見せることになったんだ。これが落ち着いていられるか?
こういうことには、大人も子供も関係ねぇだろ」

毛を逆立てる髭を、どうどうと諌めるも、なかなかその怒りの炎は収まらない様子。
若の炎よりも、ある意味では熱く高ぶっていた。

「燃ーえろよ燃えろーよー炎よ燃ーえーろー!!火の粉を巻き上げーディーヴァのショーツごと燃やせぇーーー!
ウラァ!!バーニンッ!!!」

その時、花火のような若の大技が放たれた。
轟々と燃え盛る業火に照らされる、髭のリアラの横顔。
場所が違えば、まるで本物の花火に照らされている恋人な雰囲気。
そうだったらロマンチックだろうに、その実目の前で繰り広げられているのは、若の炎による宴…。

炎の及ばぬ安全圏で背中から降りるよう言われ、おとなしく髭の背から降りると、髭はこちらを向いて人型に変わる。
目を見ればわかる。甘い雰囲気はまだ続きそうだと。

「……それとも、そんなに大人扱いしてくれるなら、大人にだけ許されるようなコト、今ここでしていいのか?」
「!?、こ、ここではダメよ…そんなことっ……!
それに、貴方しか知らないコト、他の人に見せないで…………?」
「それもそうだな…。他の奴には見せたくない。俺だけのものだもんな」

楽しそうな若とは対照的な、甘い雰囲気はここにしばし流れ続けた。
それは、ディーヴァが目覚めるまで、ずっと……。

「ふわぁ、よく寝た……!そしておなかすーいた!
あれ?2人とも何してるの?」
「「!?」」

あと少しでキスする5秒前!だったのだが、ディーヴァの目覚めとともに髭とリアラの2人は勢いよく離れる。
2人の関係性もパートナー同士であることも知られていても、恥ずかしいものは恥ずかしい。主に、リアラ側の考えだが。

「ま、いっか!
ダンテの方は何やってるの?キャンプファイヤー?」

るったらー、などと鼻歌まじりにスキップしながら、火遊びに興じる若に混ざるディーヴァ。
さすがにパートナーの炎だからか、あまり怖がっていない。…火浣布の所為もあるか。

「兄貴の命令で薪みたいなことしてるだけだぜ」
「ふーん……焼き芋焼きたくなるね!お芋あってもこれからスイーツ食べに行くから焼かないけど。
メラメラとーぉ焼き尽くせー隅から隅までそーの業火でぇー跡形もぉ残らぬよにぃー魂までも焼き尽くせー♪」

低い声で、ディーヴァが歌う、悪魔を呼びそうな国の歌。呼びそうというより、絶対に危険な魔獣を呼ぶ奴だ。
あ、すでに若という性的に危険な魔獣がお呼ばれしてた。

「その歌は歌うなよこええよ。悪魔呼びそうだわ。
あー、寒気してきた…」
「炎属性なのに寒気?
とりあえず、危ないからそろそろ消火し始めましょうか」
「煙をたくさん出すように消火頼むぞ」

鳥肌がたった、と漏らす若の元へ、髭とリアラが戻ってきた。
リスの魔獣は、炎に包まれ、今は逃げ道をなくしているようで、煙で誘導する作戦だ。

「ディーヴァ、起きてすぐで悪いんだけど、貴女の魔法で炎を消せるかしら?」
「ふぇ?
まあ、パートナーの出した奴だから、無理くりイケるよ。でも炎消すならリアラさんの魔法のが早くない?」
「諸事情で今は使えないのよ」
「そっかぁ。…うーん、チーズケーキホールでひとつで!」

なんとただでは動かないときた。友達相手なのに、ひどいぞディーヴァ!

「……がめついなお前」
「ふふふ、なんとなくわかっていたわ。オーケーよ。りんごのコンポート入り特大のチーズケーキワンホール楽しみにしていてね」
「ひぃえ!嬉しいグレードアップ!?」

約束されし美味い物が、更に美味い物として約束された。
ディーヴァは嬉々として最大パワーで、炎を消すべくして魔法を使った。

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