スイーツまでの道のりは長い 13

リスの魔獣が逃げた後に残る、踏みつけられたラフレシア。
その怒っているであろう花弁から、むわぁと煙のように花粉、そして匂いが辺りに撒き散らされた。
踏まれた数多の花弁から…ということで、多量すぎるそれ。

「なんだよこの甘ったるい匂い…甘すぎて鼻がもげそうだぜ」
「バニラオイルの瓶を割られた時みたい。嗅覚に重きをおく魔獣や魔女には少し刺激が強すぎるわ…」

若とリアラがそう感想を漏らす。
リアラは以前、バニラオイルの瓶を複数一気に髭に割られたことがあるのだが、あの匂いはすごかった。数日間はにおいが取れなかった。

「お、おう…その節は大変失礼した」
「いいわ、パートナーになりたての頃の、昔の話だものね」

閑話休題。
まあ、その話は機会があったらいつの日か話すとしよう。

「この甘〜い匂いは、お花達が出してるんでしょ?すごいね。いい匂い〜…」
「常界のジャングルに咲くラフレシアはとても臭いらしい。けど、魔界のこいつは甘い香を放つ。
まるで焼きたてのパンケーキとそれに添えるメープルシロップみたいにな」
「でも今日食べるのはパンケーキじゃないし、胃袋は食べる予定のスイーツ用にしっかり空けてるのでいらなぁい〜」

スイーツ好きのディーヴァが、甘くていい匂いで美味しいスイーツ代表のパンケーキを、拒否した!
その事実に3人、特に若に動揺が走る。

「なんと!スイーツ好きのディーヴァがこの甘い香りの中ブレないでいられる…だと…!」
「だって匂いだけなんてねぇ…?
ツツジみたいに甘い蜜チューチューできるならいいけどそんなのないみたいだし?」
「り、理性的に分析してる…!お前ほんとにディーヴァか?」
「ねえもしかして喧嘩売ってる?」

スイーツないと生きていけない!を信条にしているディーヴァが、いくらこれからスイーツを食べに行くとはいえ、食いついてこないなんて。
若同様、不思議に思ったリアラが聞けば、今回のスイーツは、制限時間内に食べきるとただになるとのこと。
そして、最低でも女の子は2人いないと、参加できないそうで。

「そこ1人で参加とかじゃないんだ…」

2人ならどうやっても元が取れてしまいそうだ。店側は相当な赤字を抱えるだろうとも。
この時そう思ったことを、ディーヴァ以外の3人はのちに激しく後悔することとなる。

ディーヴァがふと、違う方向を見やると、そこには足が生えて動いているのと違い、全く動いていない種類があるのに気がつく。
動かない上、甘い匂いが出ている。
そんな変わった、魔界に咲く種類の花ならば、きっと何か薬効があるかもしれないし、薬にして売れるかもしれない。
ディーヴァの商売根性が、ここで持ち上がる。

「あれ、こっちは動かないタイプのラフレシア?
魔獣じゃないのもあるのかな。使えそうなら詰んじゃおうかな?」
「あっこら触るなディーヴァ」

若が止めるのも聞かず間に合わず、ディーヴァがそれに触れる。
ボフン!
瞬間、今までと違う花粉がディーヴァめがけて飛んだ。

「ひゃあ!?……ぐー………」
「ちょ、ディーヴァ!?」
「……今の花粉は『ねむりごな』のようね」

ダイレクトにそれを浴びたディーヴァは、一瞬にして眠りに落ちる。
『ねむりごな』とは、ここまでくると、まさにポケットに入っちゃうモンスター。

「若もそうだけどなんでディーヴァはなんでも勝手に触るのかしら…。注意力が足りないわ」

ディーヴァを抱えた若を、ため息とともに眺めながら、リアラと髭はラフレシアの間を縫って魔獣を追う。

「オレも散々注意したんだけど、ディーヴァの性格はそう変わってくれないみたいだぜ。
ま、ディーヴァのそういう自由奔放で天真爛漫、言うことちゃんと聞いてくれないところも、オレが好きになった部分なんだけど」
「聞き分けが悪いのも、魅力ってか。
…おっと来るぜ、リアラ」
「わかってるわ…!」

魔法を使わずして対抗手段を講じる必要のある今、リアラは杖を物理的にラフレシアを髭の背から叩き付ける。
すると怒った花々から、見なれた赤い針が、こちらめがけて飛んできた。

「これはダンテ、貴方の……っ!」
「属性が同じなのは見たとおりだが、まさか、俺と似たような技をっ………!」

威力こそ桁違いで、相手のものは弱そうだが、それには毒のエキスが垂れているのがわかる。
普通の人間には猛毒のそれは、髭が普段常用する毒の針と酷似していた。

「若、当たらねーように、炎の壁で身を包んでおけ!」
「うお、うおおお、当たってたまるかあ!」

腕に抱えるディーヴァはその赤いフードをかぶせ、炎が少しでも当たらぬよう注意しつつ、自身の炎で弱い毒針を燃やし進む若。
実はディーヴァの上着は、一種の火浣布から出来ている。被っていればそう燃えることはない。
そして髭とリアラは、四方八方から飛んできた毒針を、叩き落とすのに必死だ。
まるで、矢や槍が飛んでくる戦場の上を飛んでいる気分。
…こんな状況で眠れるディーヴァが羨ましい。

「リアラ、危ない!!」
「…っ!」

叩き落とすのが遅れた数本が、リアラに迫る。
間に合わない、と目を見開き、そしてぎゅっと瞑るリアラ。
髭は、とっさに体勢を変え、自分の体にその毒針のひとつを受けた。

「つうっ…」

…どくん…。
弱々しい毒でも、毒は毒、針は針。
痛みはないといったら嘘になるし、攻撃されれば傷は残る。前のジャガー魔獣との戦いで負った傷が少し疼き、髭の動きが一刻止まる。
だが毒に対しては耐性はばっちりで、一瞬の鼓動の変化ののち、体内で次の瞬間に消え去った。

そして、もうひとつの毒針は、リアラの服の端を切り裂いていった。
肌に傷はない。
しかし、その場所は…。

「大丈夫!?傷は……?」
「気にするな。小さな傷しかない」
「でも、他にも傷があるわ。貴方が相手したあの獣型の魔獣との戦闘で負ったのね?
確かディーヴァがよく効く回復薬を持ち歩いていたわね…ディーヴァが起きたらもらいましょ」
「バレていたか」
「貴方は隠すのが上手いから、わかったのは今さっきよ。
守ってくれてありがとう。でも私にも心配させてちょうだい…?」

コツン、頭を髭のふさふさした首の毛にうずめ、リアラはそう懇願した。
毛皮だから、生きている命だからこその熱ではない、想いの暖かさが、髭の心を、そして熱を与えてくるリアラの心を満たした。

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