スイーツまでの道のりは長い 11
スーパーの詰め放題の野菜か。
そう思わせるくらい、七色の花をこんもりと袋に詰め入れているディーヴァの目の前、げっ歯類の仲間がじっとこちらを見つめていた。
「り、す…?」
の、魔獣だろう。黒い瞳孔黄色の虹彩、赤い強膜が物語っている。
目がバッチリあった。
そして、リスの目がディーヴァの顔から、その横、ディーヴァの救急箱のような物に。
魔獣相手とはいえ、不思議と恐ろしさは感じないなあ、とディーヴァが変わらずリスを見つめていると。
「あっ!それあたしの作ったお薬…!!」
箱の蓋を器用にも開け、一瞬にして中の物を盗られてしまった。
まるでRPGに登場するジョブ・シーフのような素早さ。
器用に手で持っていった魔獣は、トタタと木の上へ。
まあ、べつに少しくらいなら持っていかれても平気なんだけれども…。本質入っているのは回復薬や栄養剤だし。
ん?ちょっと待て。リス魔獣が持っていったのって、赤と白のカプセル…?
「それ失敗したAPTX4869!んんん毒薬ぅ!カムバックリスさーん!!」
あぶなぁぁぁあい!それはとっても危険で、ふしぎなおくすりだ!
ふしぎなおくすりといっても、渋谷で海を見たり竹下通りでポールダンスしたりしない。
ただ、魔獣にどこまで効くのかわからないが、この度かの有名なAPTX4869を作ってみたのだ。しかし今回のは失敗作。
幼児退行になることは絶対ない上に、毒にしかならない薬。
え?APTX4869も毒薬?たしかに!
だが、ディーヴァが叫び止めるもむなしく、赤と白のカプセルを……魔獣が齧って飲み込んだ!
瞬間、即効性の毒でぱたんと倒れ、そして真っ逆さまに真下にいたディーヴァのところへと落ちるリス魔獣。
「あわわわわ、APTX4869殺人事件起こしちゃったよ!」
脳内に火●サスペンスのテーマソングが流れ、慌てるディーヴァ。デデデデ、デデデッ、デーデー!
…って、かろうじて死んではいない!
頬袋が変な形に膨らんでいるのに気がついたが、それよりも今はこの子が死なないようにするのみ。
「ダーンーテーー!!」
ディーヴァはリス魔獣を腕の中にだき、自分を置いていった若の後を追う。
置いていってない?うん、自分で残ったんだったね!
そして、若の銀色の頭と羽耳が、草むらの向こうにぽんと飛び出しているのを見、その背中へ勢いよくダーイブ!
「ぬほぉ!?」
ディーヴァの杖の先が若の肩甲骨の下に、大きくめり込んで吹っ飛び、そのまま若を押し倒す形をとった。
「どうした、ずいぶん刺激的な抱擁だなディーヴァ…」
「あっ、ごめん」
刺激的=物理的になのだが、若は嬉しそうにディーヴァの体に押しつぶされるまま。
更には、押し倒された体の向きを変え、まるで女性優位な体勢をとる。
「別にいいぞ?そのまま、ほら、こうやって……」
「あんっ、ゃ……、ちょっと、こんなとこじゃ……!」
抱き合う格好になったと思いきや、突然ディーヴァのスカートの中へ入る、尾の蛇。
しゅるしゅると侵入したそれが、ディーヴァのドロワーズのその先を、甘くかすった。
「ここじゃなきゃいいってか?」
「な、ちが………っ」
「ほらほら、もっと抵抗しないと、挿れちまうぜー」
尻尾で、変なことされる!
あわてたディーヴァは、持っている杖で若の頭でもなく胴体でもないところを狙う。
「…や、やめてって言ってるでしょっ!」
「ぎゃああ!?」
ゴキャッ!
すごく、すご〜く痛そうな、良い音。
杖という鈍器が、どんなに鍛えても鍛えられない若の大事な場所を潰した。
蛇の尾は、若の痛みに合わせ、痙攣し、撤退していく。賢明な判断だ。
あまりの痛みに一瞬白目むいた若を見て、とうとう我関せずして観客となっていた髭とリアラが言葉を発する。
「的確に俺達魔獣の弱点をつく攻撃だな。怖すぎてタマヒュンしたぜ」
「魔獣というより、若は性獣に見えるけどね」
「えっ!2人に見られた!?恥ずかC!」
「いてて、今更すぎるぜディーヴァ…。二度と使い物にならなくなるところだった」
男として若がディーヴァにされた所業を怖がる髭であったが、「良い攻撃だったぜ☆」とディーヴァのナイスファイトをたたえる余裕を見せる。
キンテキならぬ、杖でチィーン!したのを指摘され、逆に余計恥ずかしくなったディーヴァの顔は、今や見たことないほどまっかっか。
「あうう、今のは忘れてね?じゃないと忘却呪文かけちゃうんだから!
…でもよかった、このだだっ広いジャングルの中でも、無事に2人と合流できたんだね」
話を無理やり変える作戦だ。
「どこにいるか見当がついてたんだし当たり前だろ。だいたいディーヴァは道草食いすぎなんだよ。
そして今の恨みは絶対忘れないからな。帰ったら覚悟しとけ。いやってほどねちっこく仕返ししてやる……」
「あう、ごめんなさい…。謝るから勘弁してよ……」
が、復活した若に戻されてしまった。その上末恐ろしい事まで言われる始末。おそろしあ。
若により首に巻かれたベーコ…こほん、マフラーを返しながら、ディーヴァは青ざめて若に繕った。
ディーヴァが若へのごますりを懸命にしている頃、リアラと髭はその腕の中の小さな存在に気がつく。
ちっちゃすぎてよく見ないと分からなかった程度の能力!
「それで、ディーヴァが抱えているのって、もしかして…」
「もしかしなくてもあのリス魔獣だな。意識はねぇみてえだが」
あっ!そうだった!
そう、探しに行こうとしていた件のリス魔獣だ。
頬袋が鍵の形に膨れているのが見える。他の個体ではない。
あんなに逃げ惑っていた奴も、今はディーヴァの腕でおとなしく抱かれ…いや、ピクリとも動かない。
「…まさか、ディーヴァが殺ったのか?」
髭の言葉に再び流れ出す●曜サスペンスのテーマソング。デデデデ、デデデッ、デーデー!
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