スイーツまでの道のりは長い 8

「何これ綺麗」

ディーヴァが地面に目を向ける。
若も同じ場所を見てみれば、そこには南国の花として有名な大きな花弁が咲き誇っていた。
ただし、生え方が太い茎一本、なんか変だ。

「へんな花。でも、ハイビスカスだっけか、アレに似てるな」
「うん。綺麗だから農場に植えたいな。ダンテ、引っこ抜いて袋に入れといてよ」
「なんでオレが」
「あたし抜こうとしたんだけど硬くて力足りないんだもの」

ほら袋、とまるで出勤ついでにゴミ出しを頼まれる夫のそれに近い感じでディーヴァから採取袋を手渡される。
人使いが荒いなぁ全く。

よいしょと、座り込んでそれの根元に手をかける。
その瞬間、ディーヴァが草の中に顔を突っ込んだようで、あほらしく騒いでいた。

「あっ、草のせいで耳に髪の毛と羽飾りが入った!うひゃあくすぐったい!」

髪飾りについた羽の形の装飾、そして自身の長い髪が耳の穴を刺激しているよう。
…何やってんだか。

そして同じタイミングで、若はそれをズボッと引っこ抜いた。
途端、根っこが空間を切り裂くような金切り声を上げた。

「ピギィィィィィィーーーーー!!」
「うおあ!?」

この根っこの形は、人のそれ。
まじか、マンドラゴラかよ。
くらりと遠のく意識を必死に繋ぎ止め、手の中の温度を発火熱ほどまでに上げる。
マンドラゴラに罪は全くないが、燃えるぜバーニーング!
地上に現れたばかりのマンドラゴラが、若の炎で消し炭と化した。

「あー。羽と髪、やっと耳の穴から出てったー。くすぐったくてなんも聞こえなかったよー。何かあった?」
「何も。
そんな羽の装飾ついた髪飾りつけてるからだろ。…かわいいけど」

ジャストタイミング。
ちょうどディーヴァもセルフ耳責めから解放されたようで、耳穴をモミモミしつつこちらに戻って来た。

「ディーヴァ、今の花な、引っこ抜くと枯れるやつみたいだったから、持ち帰るのは無理そうだぜ」
「?そうなんだ。ならしかたないね」

無理も何も、消し炭にしちまったけどな。
何も知らず、ディーヴァは呑気に歩いて行く。

はー。ディーヴァにマンドラゴラの叫び声聴かせなくてすんだ。あんなもん聴かせたら人間なら一発でオダブツだからな。
魔女のディーヴァなら、気絶は免れねー。

そもそも、持ち帰って植え替えたとして、そんな新種のマンドラゴラどうしようもねぇ。
まさか、引っこ抜く度にオレを使うなんてこと……ディーヴァならあり得そうで怖い。

ちなみに若は、叫び声の最初の一声だけ聞いた。その瞬間、見たことも聞いたこともない今は亡き母方の祖父母を花畑の中にいた気がする。
やばいあれは死者の国だ。
咄嗟に羽を折り畳めたからよかったものの、聴き続けていたら…ぞっとする。

ぴーん。
無宗教なはずの若の元にエロスの神様が降りて来た。
魔女なら気絶、で思いついたことがある。

「んん!まてよ、魔女なら気絶…!?ジャングルの中でディーヴァに好き勝手出来たかもしれねぇなオイ!
ジャングルでワイルドに青姦!イイッ!!」

脳内で打たれた満塁ホームラン、荒れ狂うファンファーレ、そしてサポーターの皆様の喝采。
そして、背後のディーヴァの目だけ笑ってない恐ろしい顔。

「ダンテ、なんだかよくわからない内容だけどいかがわしい事聞こえてる。独り言おっきい」

それでも若の口は止まらない。

「おっとお!大きいのはオレの下半身のマグナm」
「それ以上言うとパートナー解消ね」
「スイマセンデシタ」

さすがにお口チャックした。

「あれ?あっちでなんか聞こえるね」
「んー、この気配は……、あの2人がいるらしいな」

ディーヴァの言葉に五感を研ぎ澄ませて探ってみれば、リアラと髭の気配を感じる。
距離と動き的に、髭がリアラの方に移動している、といったところか。

「なんかわかったかもしれないし、そろそろ合流するか」
「そうだね。…あ、」

今度は何を見つけたか、ディーヴァはキラキラした目で草葉の陰を見つめる。
またマンドラゴラだったらどうしようか。そればかりが気になる。

「おいディーヴァ。兄貴がリアラに言ってたのと同じように、お前もちっとは動くの自重しろ。
オレだってディーヴァが勝手な行動して傷ついたらと気が気じゃねぇ…」
「……ダンテ……」

肩を掴んで注意しつつ、見つめ合う。
ふんわりと甘い空気が2人の間に漂い、近づく互いの唇。
あと、数センチ。

「でも大丈夫!さっきリアラさんが詰んでたお茶になるやつ咲いてただけだから!」

と、思ったらその空気はディーヴァの明るさで、全てがぶち壊し。
鼻歌まじりに七色の花を見せて来たディーヴァと反対に、キスする雰囲気だっただろ!と内心落ち込む若でした。

「あたしも詰んどこっと。綺麗だし美味しいんだよねぇこのお茶…」
「はあ?ここに来てまたそれかよ!ほんっと茶が好きだなディーヴァ」
「何よ。ダンテだってよく飲んでるでしょ?あの魔女の七色ティー。
手伝うの嫌ならダンテ先行ってて。詰んだらすぐ追いかけるから」

ウンザーリする若はきっと手伝う気がないのだろうと、しっしっと追い払う仕草をするディーヴァ。
茶は好きだが、実はあまり花の状態のこの匂いは、あまり得意ではない。
若はおとなしく引き下がり、ディーヴァを置いて先に行く事にした。

「いいかディーヴァ、詰んだらすぐ来い。あまり遅れるんじゃねぇぞ」
「オッケー牧場っ!」

古い言葉を返し花しか見ていないディーヴァの首に、若は自身のマフラーを外してかけ、その場を後にする。
え?魔獣の時のたてがみが変化したマフラー、取れるのかって?
あまりにも遠くに持ち出すのでなければ実は取れる。若の魔力が染み付いてるので、使う者を守る効果もある素晴らしいシロモノなのだっ!!

「……あ、ダンテのベーコンいつの間にかあたしのところに出張してる。
どーりで暑苦しいわけだ」

だからベーコンじゃないとあれほど(ry

「けど、ダンテの匂いする…落ち着くなぁ…。
まるでダンテに包まれているみたい」

暑苦しい、などと言ってはみるが、その実若の優しさが嬉しいディーヴァ。
こういうちょっと素直じゃないツンデレなところも、本編のディーヴァと違うかもしれない。

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