スイーツまでの道のりは長い 7

「まさかこんな風に休みの日も仕事する羽目になるとは思わなかったけれど、ターゲットのひとりが常界でなく魔界にいるとはね…」

これもディーヴァが運んできた福にして厄か。あの子は、良くも悪くもトラブルメーカーだ。

目の前の蛇女の皮膚は金属のように硬く、銃弾はもちろん、リアラの氷柱針も表面を削ぐのみで、対したダメージを負わせる事は出来なかった。

「氷柱もあまり効かない…その硬さゆえ、かしら」

いくら放ったところで、突き刺さらず弾かれるばかり。
ならばここはやはり攻める箇所、もしくは攻撃方法を変えてしまうのが得策。

冷気煌めく杖を一度しまったリアラは、服のレースをはためかせ、地面を蹴った。
迎え討つ体勢の、蛇女。

「セクハラじゃないから許しなさいよ…!はぁっ…!」

リアラを狙いのたうつ尾をかわし、鎌首をもたげた恐ろしい懐に飛び込み、指を組んだ両拳をその女性形上半身、その心の臓めがけて打ち込む。
髭や若ほどではないが、訓練されたその体術に、巨体がよろめいた。

「ま、私の腕じゃ、拳でのダメージはそう多くない、か」

が、狙いはその拳からくるダメージではない。

ピキ、ピキピキ、と胸を中心に、薄氷が広がっていく。
相手は訳もわからず、凍っていく自身の体に恐怖し、のたうちまわって暴れていた。
それを、飛びのいて安全地帯で観察するリアラ。

生き物には血液が流れる。血液は液体。液体は冷却すれば凍る。
拳に込めた必殺の冷気を、肉体の内側、血液を送り出す心の臓に叩き込んだのだ。
過冷却された血液は、少しの衝撃で氷結し始める。その氷の量はほんの少しだけでいい。
ほんの少しの氷の欠片で、凍っていく。

とはいえ、そう長く凍るわけではない。
生き物自体の体温で相殺され、凍っている時間は短いのだから。
それに、この方法は、魔法の術式的に少し高度で、魔力操作も大変使う魔力も多い、しかも上手くいくとは限らないものだ。
結果的に成功したからいいもの、下手をすればこちらが反撃されていたかもしれない。

そうなれば、パートナーの雷が落ちそうだ。
いや、雷属性ではなく、比喩で。
何より、また心配をかけてしまう、その行為がとても罪深いものに思えた。

「けど、これでわかった。
相手の弱点は、温度変化ーー」

その恐怖の表情が物語っている。
氷始めてからすぐ、また氷が溶けて元に戻るまで、気が気じゃない暴れ方をしていた。

息の上がった蛇女が、鬼の形相でこちらを睨む。
自身の怒りゆえか、はたまた体温を無理やり上げでもしたか、その体は赤く色を変えていた。
まるで体力が少なくなった敵との戦闘みたい、とリアラはどこか他人事のように思った。

一度は仕舞った杖を取り出し、最大限まで冷気を込める。
どうやら同じタイミングで、相手も何やら詠唱を始めたようだ。周りの空気が暗く澱み、歪んでいる。

そのうち暗黒色の球が浮かんだ。
見た目だけでいえば、小さなブラックホール。
無数の球が、バチバチと空間を歪ませながら、リアラに向かって飛んできた。

「こんなもの、当たらなければどうってことないわ」

杖を構え、豪速球の球の間を縫うようにかわし、疾走する。
どうしても避け切れぬ物は、杖を使わず自身の魔力そのもので作り上げた冷気の球で相殺させた。
相殺され、吹き荒れた息も凍る寒冷風。
リアラにとっては非常に心地よいものだが、蛇女にとっては、苦痛にしかならない。

「ふふ。蛇は変温動物、やっぱり寒さにはめっぽう弱いようね?」

ブルブルと震え、動きの止まる蛇女の目の前、リアラはワザと一度止まった。

敵、そして獲物たるリアラが、蛇女の真っ黒な瞳に映る。
瞬間、女の上半身を蛇そのものの頭部へとコンバートさせ、ぐわぱと大きく口を開いた。
巨大アナコンダ級の胴体を持つその魔獣だ。
その頭部はそれに見合うようにやはり巨大で、リアラなぞ一息で丸呑み。

だが、リアラは相手が大口開けるのを待っていた。

「あとは中から勝負よ」

開かれた口の中、腕を縦に突っ込んで、杭がわりにこじ開ける。
顎に足もかけ、閉じられないように固定するまでを一気にやってのけたリアラは、そこへ氷の魔力を最大まで貯めに貯めた杖先を突っ込んだ。

「凍りなさいっ!!」

杖の先に収束した冷気の光線が発射され、魔獣の口を通り、体の中を一直線に貫く。
パキパキパキ、口を開けたその状態を保ったまま、魔獣が凍りついていく。

「はぁっ…、この魔獣、ウワバミ並みね……っ」

凍りつき始めてもなお、暴れのたうつ尾。
リアラは腕と足、杖を固定したまま、魔力を放出し続ける。
魔力を吸い取られているような感覚に陥るほど、膨大な冷気を放つことになった。
蛇だけに本当にウワバミだ。蛇だけに。

開いた顎の下に氷柱が垂れ下がるような氷像と化した瞬間、リアラは魔獣の活動停止を悟り、ようやく飛び退いた。

「ふぅ、ちょっと使いすぎたわね。今日はもう魔法を使わない方がよさそう……」

魔力の消耗が激しい。
相手は人語を理解できなかったとはいえ、強さだけならゴールドの低級までいくかもしれない。
リアラの今日一日分の魔力を使い果たすほどには、久々に手応えある相手だった。

動かなくなった魔獣を前に、リアラはケルベロスへの転送用弾薬を銃に詰める。

先程は心の臓に攻撃したとはいえ、外側からだった。
が、今回は中から攻撃したのだ。そう簡単に、氷結状態から回復はしないだろう。
見れば、凍死を通り越して、冬眠状態に入っている。
死んでいなくてよかったが、よく考えれば魔獣用の監獄は氷魔獣ケルベロスの管轄。
この魔獣にはこれからが地獄だろう。

同情の念をいだきながら、リアラは魔獣の周りに結界を設置。
結界めがけ弾を撃ち、魔獣をケルベロスに送った。

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