スイーツまでの道のりは長い 5
久しぶりに胸の高鳴りを感じた。
頬にまで集まった熱を冷ますように周りを見渡すと、遠くの木々の間にキラキラと光るものを見つけた。
「ダンテ、」
「ああ、リアラも気がついたか。おりてみよう」
杖の速度を上げ、リアラは件の場所へと降り立った。
降りる瞬間再びジャンプとともに人型へと戻った髭、そしてリアラの前に現れたのは、何かの遺跡…に見立てられたのか、朽ちた石の扉。
そして光っていた物は、その扉を雁字搦めに覆い尽くす鎖と中央の馬鹿でかい南京錠。
「光って見えたのは南京錠…?」
「付きの扉、常界へのゲートだな」
中より漏れ出す、常界、それも人間の気配が色濃く滲む空気。
ーーもしかしたら、扉向こうは人間の住む街かもしれない。
「んー。南京錠の鍵はどこかしら?」
その朽ち果て具合に、どこかに鍵が下がっていないかと見回すリアラ。
懸命に探すリアラに、髭は背後の方をいささか気にしながら静かに言葉紡ぐ。
「リアラ、鍵がかかったゲートの意味って、なんだと思う」
「え、…だれかが鍵を守っているってこと?」
「そうだな。ここは魔界、だれかというのは、もちろん?」
何かがこちらに向かって飛び出してくる。
その瞬間、髭とリアラはその場から飛び退いた。
間髪入れずに、リアラは懐の銃を、髭は毒の針を放つ。
「もちろん、魔獣ね」
相手はそうとう素早いのか、当たらなかったようだ。
硝煙けぶる銃、新たな針を構え、撃った方向を睨む2人。
そこにいたのは、とぐろを巻いた大蛇の魔獣。
当たり前だが太ささは若の蛇とは比べ物にならないほどで、髭の腕でも回りきらないほど。
「おお…リアラが先の会話でアナコンダやらカンディルやらの話ししたから本物の御登場だぞ」
「フラグ立てちゃったってわけね。
…といっても、上半身が女性形なところを見ると、エキドナかラミアーのようにも見えるわ。
ねえ!別に争いたいわけじゃないの、ここの鍵を知らない?」
なかなかの小綺麗な顔をした美女風の口から、蛇特有の2叉舌がチロチロ覗く。
と思ったら、鎌首をもたげ、リアラに向かって突っ込んできた。
再び飛びのき、リアラは銃を数発撃ち込む。
吹っ飛んだリアラを受け止め、髭はあまり銃が相手に効かなかったのを見た。
「…大丈夫か?」
「ええ。人語は理解していないみたい。でも、ゲートの守護をしているようなのはわかったわ」
弾丸が効かないのをリアラも理解したか、銃を懐にしまい込み、今度は杖をその手に構える。
しまい込む際出てきた捕獲用ブラックリストが妙に気になり、ぱらりと捲ってみた。
「となると鍵はどう探すかしらねー。…ん?」
「ゲートと言うよりはこいつの縄張りかもしれん。どうするリアラ」
「…どうするもなにも、これ見て」
開いた帳簿のページ、そのある一点を指差すリアラ。
そこに載っているのは、対峙している魔獣と瓜二つの魔獣の画像。とどのつまり。
「なるほど、こいつぁ捕獲対象か」
「人様に迷惑をかけているようだし、取っ捕まえてケルベロスのところへ送らせてもらう」
「りょーかい」
向かってくる寸前なのだろう、蛇魔獣のシューシューという鳴き声が聞こえる中、杖を中心にしてリアラの周りを冷たい空気が渦巻く。
銃が効かぬ硬い装甲ならば、属性で勝負だ。
ジャラッ!
加勢にと、髭もその両手を握り、交差させてから開く。
開いた指の間にはマジックか何かのように、左右4本ずつの毒の針が構えられていた。
「ッ…新手かっ!」
が、髭はその針を舌打ちと共に違う方へと打ち込んだ。
ぐるるる、うなり声とともに木々の隙間から顔をのぞかせたのは、濃紺の体躯に青の斑点の目立つジャングル最大の肉食獣、ジャガー。の、魔獣。
色から判断するに水属性、といったところか。
「まさにジャングルオンパレードだな。
ここはアマゾンか?ん?」
飛びかかってきた巨体のジャガーの鋭い爪を、リアラを抱えて避ける髭。
「笑ってる場合?
前門のジャガー後門のヘビってことよ?」
「本来の言葉としては、あちらさん達から見た俺達に当てはまってるんだがな」
「そうね、『前門の虎後門の狼』って言うもの…ねっ」
次いで振り下ろされた蛇の太い尾を、全てを凍てつかせる吹雪で防ぐリアラ。
尾の先が凍りつきのたうち回る蛇から離れ、宙に氷柱を形成し始めると、髭はリアラから離れ、ジャガーの攻撃の先を自身に定めさせた。
「くっ…!」
構えた針だけでは攻撃を耐えるのは無理だ。
ジャガーの攻撃が決まる瞬間、髭は魔獣に姿を変え、爪を爪で迎え討った。
ガキィン…!
爪同士だと言うに、金属音のような音が響き渡る。
力の強さだけで言えば、五分五分か。
距離をとった二匹が、相手を睨みつけながら唸り声を上げ合う。
「リアラ、悪いが今は加勢できそうにない。そっちの蛇オンナは頼めるな?
俺はこいつと戦わなくてはいけないらしい」
「ネコ科同士の避けられぬ争いってわけね」
蛇女が仄暗い闇の波動を纏い、金切り声を上げて向かってきた。
闇の波動…と言うことは、闇属性か。
リアラは「はっ!」と息を吐き出しながら、飛び上がって上から氷柱を降らせた。
それに合わせ走り出す髭。そしてそれを追うようにジャガーも牙をむき出して走り出す。
「リアラ、無理はするなよ!
助けが必要なら俺を呼べ。命に代えてもお前を守る……っ」
「貴方こそ助けが必要なんじゃなくて?そんな魔獣に負けないでよ!」
「負けないさ、リアラが俺を信じてくれる限りな!」
戦いやすい場所へ向かったのだろう、半ば叫ぶように髭は大声で言い残す。
「信じてくれる限り?……もちろん信じてるわよ」
木々の奥に姿を消した髭に向かって呟くと、リアラは杖を構え目の前の蛇女と相対した。
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