誰にも盗めぬ狼のはぁと 2

事務所に戻ったダンテは、テレビ速報に流れる自分の所業をニヤと笑みを浮かべて聞いていた。

「俺に盗めぬ物なんてこの世に一つもないのさ。おい、お前。俺に狙われたら大人しく諦めときな」
「かっこつけてる暇があるなら、ちゃんと働いてくれないと困りますよ」
「おぅ、リアラ。悪いな」

音も立てず背後に立ったリアラがため息を吐き出す。

「おかえりなさい。ダンテさん」
「ああ、リアラ。ただいま。ほら、これがダイヤとドレスだ」
「綺麗…」

渡された袋の中を手にとって確認するリアラ。
キラキラと輝く品物と同じくらい、リアラの目もキラキラと輝いていた。

「ありがとうございます。…お疲れさまです」

ひとしきり見つめたあと、そそくさと袋にしまい込む。

「ん?自分ではつけたり、着たりしないのか?似合うだろうに…」
「いいんです、他にも欲しいものたくさんありますから」
「そうか。と、いうことは、また俺に盗ってこさせる気なのか、銀狼?」
「ええ、貴方には無理なのかしら?銀猫」

そう言ってダンテに挑発的な笑みを向ければ、ダンテは鼻で笑って返した。

「はっ!俺に盗めぬものなど、たったひとつを除いてないさ」
「それは何かしら?」
「トップシークレットだ」

ダンテはリアラの耳元に近づくと、小さくささやくように、そう言った。


お前も、欲しい物があるのなら俺を呼んでみな。
獲物を狩るハンターのように、静かに確実に、手に入れてやる。


「…さあ、次は何が欲しい?リアラ」
「そうですね。次は絶滅したあの蝶の標本ですかね…?」

青い蒼い、リアラの青い瞳と同じ、瑠璃色の薄羽根を持つ、絶滅した蝶。
その情報が事細かに書かれた資料を、スッと差し出し、リアラは笑う。

「ふぅむ、綺麗な蝶だな。『Frozen Butterfly』…か。冬にのみ翔ぶ青い蝶…まるで、リアラだな」
「私が冬生まれだからですか?」
「凍れる銀狼…その心は誰のものにもならず、冷たい目で男をあしらう……お前のファンになった警官達はお前の心を逮捕したいようだぞ?」
「あらら、そうなんですか?そんな目で見た覚えは全くないんですが…」
「リアラは、男泣かせだな」
「まったく、どこがですか…」

苦笑し合って話していると、ダンテのすぐ目の前の電話がけたたましく鳴り響いた。

「Devil May Cry?」

パッと受話器を上げたダンテの電話口から聞こえてくる、若い女の声に、思わムッとする。

「……わかった、すぐに」

普段は便利屋を営むダンテとリアラ。
合言葉つきの依頼だったのか、ダンテがそう言おうとした瞬間だった。

…ガチャン……

請けようとしたそれをリアラが、細い指先でチョンと切ってしまった。

「おい、リアラ何を…」
「他の女の依頼なんて請けたら許さない。今は怪盗のお仕事が先…それをわかってますか?」

妖艶な流し目で見つめられ、ダンテはたじろぐ。
それ以上文句は言えなかった。

「…わかったよ」

ちらと向こうに目をやれば、盗ってきたものが置いてある部屋がいっぱいで、扉がしまらないのが見える。
目に痛いほど眩しい、金銀財宝の山が、こちらにまで丸見えだ。

「しっかし、こんなに盗ってこさせてどうするんだ。王国でも作る気か?」
「いいえ。好きなものをたくさん集めたら、フォルトゥナに全部送って、町を賑やかに、みんなを幸せにしたいんです」

うっとりと、故郷全部を巻き込んだ盛大な孝行に思いを馳せる。
その時、自分の立ち位置はどうなるのだろうか。

「で、俺は?従順な下僕か?」
「下僕なんて、そんなことないですけど…」
「いらなくなったら、怪盗コンビは解消されちまうのかな?」
「……。私の夢の話はおしまいです」

上手く、はぐらかされた。

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