誰にも盗めぬ狼のはぁと 1

パトカーのサイレンの音が闇の中に響きわたる。
ビルとビルのわずかなる影を移動して警察を欺き、ダンテは走った。

「そんなものに俺は捕まったりしない」

そう言って、闇に溶け込む光る目がふたつ。
薄青く輝くアクアマリンのような瞳だけが、闇夜にぼうっと浮かび上がる。

「こちら『銀猫』。ダイヤとドレスを手に入れた」
『こちら『銀狼』。了解したわ。証拠はちゃんと消してきましたか?』

月の光の届かぬ暗闇で事務所に待機中の銀狼と通信する。

「もちろんだ、リアラ」
『はあ…仕事中は名前を出しちゃダメですよ、ダンテさん』
「あとは帰るだけなんだからいいだろ?」
『帰るまでが仕事ですよ』
「ふむ、違いねぇな」

怪盗『銀猫』『銀狼』。
世紀の大泥棒であり、その素性はほとんど明かされていない。
わかっているのは、猫耳のついた獣人の男と、狼耳のついた獣人の女であることくらいか。
その毛色からどちらにも愛敬をこめて、人々は『銀猫』『銀狼』と呼んでいる。

捕まえようにも警察の包囲網を猫のようにするりとすり抜け、ふざけ欺き、毎回逃げおおせる銀猫は、ダンテという。
頭がきれるため普段は司令塔をつとめるが、ひとたび現場に回れば狼のように、素早く力強く盗みを働く銀狼は、リアラという。

「今ごろあわてふためいてることだろうよ」

ダンテの追手はともかく、現場は更に大慌てなはずだ。
守りを堅くしてあったのかどのものにも、近くには警備員はたくさんいたし、赤外線センサーで守っていたのだ。
なのに、気がつかずに、まばたきをするほどの一瞬で―…

気付いた時にはもう手遅れ。
猫と狼が描かれた小さなカードが、代わりにあるだけだ。


『予告通りありがたくいただきました―
―怪盗『銀猫』『銀狼』』


盗んだダイヤモンドとドレスが汚れていないかを軽く確認する。
サンタクロースのプレゼント袋のように大きな袋の中に入っているのは、今回の戦利品たる世界一大きなダイヤモンド。
そして、世界的大スターがドラマで着ていた、宝石を散りばめたドレスだ。
いったいいくらするのやら…

眺めていたら、警官の声と、サイレンの音がすぐ近くまで迫っているのに、気がついた。

「さて、とっととずらかりますか。ここにももうじき捜査の手が伸びるだろうしな」
『そうした方がいいですね』

通信を切ったダンテは、闇に溶け込むダークレッドのコートを翻し、そこから姿を消した。

[ 98/130 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -