恋せよ乙女 後

あたしが余程ふて腐れた顔をしていたのか、若がクレープを奢ってくれた。

「ここのクレープ美味いだろ?」

そう言って少年のように笑う若に、すっかり毒気を抜かれてしまう。こんなご機嫌取りで本当に機嫌が直ってしまうのだから、あたしはとても安い女かもしれない。

「紅、クリーム落ちそう」

「え?」

そんな事を考えていたせいか、食べかけのクレープ生地から溶けたクリームが落ちそうになっていたらしい。いち早く気付いた若は言うと同時に私の手首を掴み唇を寄せた。ぱくり。大きなひとくちは、あたしの指先まで舐めてから離れていく。

「ん…こっちも美味いな」

「…絶対わざとだ…!」

どうやら最近の若は、あたしをドキドキさせるのを楽しみにしているらしい。負けず嫌いなあたしの闘争心に火がついた。仕返ししてやる!

「あむっ」

「…………」

予告もなく若の手首を掴んで、アイスの入ったクレープに大きくかぶり付いた。若の指に唇が触れたけれど気にしてやるもんか。口の中に広がるストロベリーソースの酸味とクリームの甘さが丁度良い。

「確かに美味しいね」

こっちの味のでも良かったなあ、なんて思って唇に付いたソースを舐めたところで、若から反応が返ってこない事に違和感を感じて視線を上げた。珍しく驚いた表情で固まる若に困惑してしまう。

「わ、若…?」

「…っ、お前な…」

次いで若は視線を逸らし手で口元を覆い隠してしまった。呆れてるのかと不安に思ったあたしは、逸らされた視線の横にある耳が赤く染まっているのに気付いて目を瞬かせる。若が照れるなんて可笑しくて、嬉しくて、笑いを堪えられなかった。

「…笑うなよ。ほら、もう行くぞ」

フン、と鼻を鳴らして歩き出す若の後を追う。あたしから手を繋げば、ぶっきらぼうに握り返す大きな手。いつもより熱い気がしてぽかぽかと胸があたたかくなって、幸せな気持ちで隣を歩いた。

「あっ、あれ若に似合いそう」

「あ?どれだよ」

あたしが指差したのは、Tシャツにジャケットを着たマネキンだった。上が白くて下にいくにつれ染めたような黒が濃さを増していくTシャツに、黒のライダースジャケット。若の手を引いて近寄ってみれば、サイズもちょうど良さそうだった。

「これ、着てみてよ!」

「ちょっと地味じゃねえ?」

赤い服ばっかり持ってるんだからいいでしょ!と無理やり試着室に押し込んで、カーテンが開くのを待つ。現れたのは少し落ち着いた雰囲気の若で、頷いたあたしは直ぐに店員さんを呼んだ。

「この服、このまま着て帰ります!」

「そんなに気に入ったのか?」

「もちろん!ビビッと来た!」

自信満々で親指を立てると、若は可笑しそうに笑った。会計を済ませて店を出ようとするあたしを突然若が呼び止める。

「じゃあ次は紅の番な」

「へ?」

予想外の言葉に足を止めれば、そのまま手を引かれた。

「ちょ、ちょっと…この前のお返しなんだからあたしはいいってば!」

「いーから。こういう時は素直に言うコト聞いとけ」

キョロキョロ周りを見渡しながら歩く若は、時折立ち止まって服を手に取る。あたしを見て少し考えた後に元に戻したりして、意外と真面目に悩んでくれているらしかった。

「コレなんか良いな」

「ええ…!?」

そうしていること暫く、若が勧めてきた服にあたしは目を丸くする。それは赤いニットのワンピースだった。袖が長くて暖かそうだけど、丈が短い。

「…パンツ見えそう」

思わず口から漏れた言葉に、若の唇が楽しそうに弧を描いた。

「だから良いんだろ?ほら、着て来い」

「ちょっ、押すなバカ…!」

さっきと立場が逆転して、試着室に押し込まれてしまった。元々着ていたワンピースを脱いで試着してみる。ショートパンツを履いて来なかった事をひどく後悔した。

「…悩んでも仕方ない!どうにでもなれ…!」

カーテンを開ければ若が待ち構えていた。太腿を僅かに隠すだけのワンピースの下は黒いニーハイとブーツだけで心許ない。満足そうに笑った若は、あたしと同じようにそのまま着て帰ると店員さんに言ってしまった。

「若、これちょっと恥ずかしいんだけど」

裾を押さえるあたしを一瞥すると、若は自分とお揃いのライダースジャケットを着せてくれた。…って、そうじゃなくて!

「…お揃いとか、もっと恥ずかしいんだけど…!」

寒いのは下半身なんだよバカ!お揃いのジャケットとか恥ずかしくて死ぬわバカ若!そりゃあちょっとは憧れだったりするけど!

「嫌なのか?」

「………い、嫌じゃないけど!」

羞恥に悶えるあたしの顔を覗き込む碧い瞳にたじろいで言うと、じゃあいいだろ、と若は嬉しそうに笑った。ああ、あたし、今相当赤い顔してるんだろうな。恥ずかしいけど、こんな風に甘やかされて、愛されて。

(どうしよ…嬉しい…)

若の顔が見ていられずそっぽを向いた。どうせ耳まで赤くなってるから、恥ずかしがってるんだってバレバレなんだろう。案の定、後ろから喉を鳴らして笑う彼の気配がする。

「くそ、やっぱ可愛いな…お前って」

「な……、っん」

反論しようとした瞬間、腕を強く引かれ気付けばキスされていた。一瞬触れただけの唇に驚くあたしに、若は蕩けるような微笑みを向けてくる。

「好きだ、紅」

告げられる言葉は何よりも甘く、触れる部分が熱を持ったように熱くなる。何度目か分からないけれど激しく脈打つ心臓の音を煩く思いながら、真っ白になった纏まらない思考のまま何とかこれだけを絞り出した。

「っ、この、バカー!」

これがあたしの愛情表現なのだととっくに知っている若は、ただ嬉しそうにその目を細めたのだった。


End.
***
『Very Berry Sundae』で20万hit企画をやっていたので、またまたリクエストをしてきました!
『バカ騒ぎ夢主ちゃんと若でお互いの服を選ぶ』でリクエストしたのですが、うん、いい甘さ(笑)若は場所とか考えずに好きなように行動しそうですね(笑)
お揃いとかかわいいです!紅ちゃん、いいじゃない(笑)バカも愛情表現の一つとか、すてきです(笑)
blue様、ありがとうございました!20万hit、おめでとうございます!

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