一緒にいるだけで溶けてしまいそう 9

待ち合わせ先を有名な待ち合わせスポットで指定してしまったためか、辿り着いた先は人でごった返していた。
その中で薄い色彩の水色を探す。

(リアラはどこだ?)


――見つけた。

いつもと違う色合いの服を着てはいる者同士。
だが、お互いの目がぴたりとかち合った。
どんな恰好をしていても、どんなに人で込み合っていても、リアラは髭を、髭はリアラを見つける。

目があったその瞬間、「好き」という気持ちがお互いの心を支配した。


「悪い!待たせたか」
「いいえ、さっき来たところです。…それに、ダンテさんを待っているその時間さえ、とても嬉しいものなんですよ」

にこ、と笑ってはお互い並んで歩きだす。

そんなリアラは白やピンクを基調とした服装という、彼女にしては珍しい恰好をしていた。
見れば髪も少々違う。

「今日はいつもと違うな」
「ルームメイトに選んでもらったんです。たまにはピンクもいいよって」
「ああ、よく似合ってる。…かわいい」

かわいい。
そう言われて、恥ずかしくなったのか隠すようにうつむく。
だが、前髪を切り落としたせいか、その顔が赤くなっているのが髭に丸見えだ。

「前髪も切ったんだな。前と少し長さが違う」
「変、ですか?切り過ぎてないかちょっと心配で…」
「変じゃない。リアラの綺麗な瞳がハッキリ見えて嬉しいよ」

今度は顔を手で覆ってしまった。

「勿体ない。隠すなって」
「……はい」

ゆっくりと面をあげて見つめ合う。
リアラの瑠璃色の瞳に映る髭は、グレーのジャケットを羽織り指にはシルバーリングを輝かせていた。
そして、ところどころワックスで固めた若々しい髪型をしているのだった。
気がついたリアラはお返しにとその感想を述べた。

「そういうダンテさんも、いつもと違う恰好してますね。髪も遊ばせてるみたいだし。…とっても素敵です」

素敵。
そう言われると想像していたはずなのに、いざ言われるとなんだか照れる物を感じ、わずかに頬を染めた。

「それに指輪も…つけてくれてるんですね」

同じように頬をほんのり桃色に染めたままのリアラがボソッと追加する。

「あたりまえだ。あ、仕事の時はペンダントトップとしてネックレスにさせてもらってるぜ」
「あら、そうなんですか?いつも一緒なんて嬉しいです」
「それに、せっかくのリアラとのデートだからな。俺もおめかしってやつしてみたんだ」
「ダンテさん…」


一緒にいる、一緒に話して歩いている。
それだけで顔が赤く、熱くなる。

その熱で心も体も溶けていってしまいそう。

『好き』

なんて言葉にしたらもうダメかもしれない。
本当に溶けてなくなってしまう。

ああ。
この状態でも、真っ赤になってしまっているのに、目さえ合わせられない。

どうしよう。

ダンテさんに会うまでは恋なんてしたことなかった。
興味がなかったわけじゃない、恋に恋する時期が長かった私。

でも、今は違う。
ダンテさんに会えて、私は本当の恋を知った。
ダンテさんのことが好き……好きなの。
でも、中々本人の前では言葉に出来ない。


「……好きなの」

ぼそり、小さな小さな声で呟く。

「ん?今何か言ったか」
「何でもありませんよ!それよりこれからどこに行きますか?」

リアラは慌てたように早口で言い、笑顔を浮かべた。



その笑顔を見る、その声を聞いてその温度をそばに感じる。
それだけで俺はいつのまに人外になってしまったのだろう、氷にでもなったみたいだ。
リアラという熱源で俺は溶けていく。

リアラに出会うまでは決して溶けることのない氷だったのかもしれない。
それが今では真逆。

リアラへの愛と、リアラから与えられる愛で全部溶けてしまいそうだ。

これまでも何度か恋愛は経験してきた。
だが、今までの恋愛とはいったいなんだったのだろうか、そう思えるほど。

今まで好きという言葉は簡単に口にしてきた。

だが、リアラには本当に特別な時にしか愛の言葉は言えない。
愛の言葉すらちっぽけに感じるくらい、好きでたまらない。

簡単には『好き』だなんて絶対言えない。
その言葉を言う時は、目すらまともに合わせられない。

(リアラ…好きだ)

口の中でだけ、俺はつぶやく。


「とりあえず何か食べるか。よし、喫茶店でも行くとしようぜ」
「はい、ダンテさんとならどこへでも」

2人は再び歩き出すのだった。

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