一緒にいるだけで溶けてしまいそう 8
朝。
髭は目覚まし時計ではなく、愛しい恋人…リアラからのモーニング・ワン・コールで目が覚めた。
目覚めて、真っ先に目に飛び込むのは枕元に置かれたリアラと撮った写真である。
たくさんの写真を小さな画像として周りに配置し、一番気に入った写真を大きく真ん中に配置したというそのお気に入りの一枚。
見ているだけで心が暖かいもので満たされていく。
今日はそのリアラとの大事なデートの日。
リアラと会ったら何を見て、何を食べて、何を話そう。
思うのはリアラのことばかり。
簡単に愛を口にするのははずかしいが、普段中々会えない分、今日はたくさんの愛をなんとか伝えられたら…。
そう思う。
しばらく考え込みながら、髭はベッドから起き上がった。
顔を洗いながら鏡で自分の顔をじっと見つめると、いつもと変わらぬイイ男がそこには映り込んで笑っていた。
しかし恋人と会うというのにいつもと同じ髪形。
職場にいる最近入ってきた若僧…名はネロと言ったか、恋人の話で盛り上がった時に言われたことを思い出す。
『え、恋人と会うのに大体が同じ服装に同じ髪形!?男だってたまにはしゃれこむのも大事だぜ?髪くらいアレンジ加えてみろって』
生意気にも年上で先輩にあたる俺にそう抜かして来やがった。
腹立たしくも感じるが、あいつの言うことも一理ある気がしてならない。
「ふむ…」
思い切って少しだけいじってみるか。
髭はいつもはただとかしただけに過ぎない髪を、今日は軽くワックスをつけて遊ばせてみた。
少し後輩にも似ているその髪型は、なんだか若いころに戻ったかのようでリアラと並んだ時に同じ年くらいにみえるに違いない。
『どうしたんですか?いつもと違って新鮮…。かっこいい、惚れ直しちゃいます……』
そんなことを言われたらさすがの俺でも顔を赤くするのを我慢できないかもしれない。
今だってほら、考えただけで顔が熱くなってきた。
「いかんいかん、さっさと支度しねーとな」
出かける支度を続ける。
今回の服装はいつもと違う恰好だ。
何も後輩に言われたからではない、断じて違うからな!
深いグレーのジャケットに、黒のパンツ。
そして、前にリアラがカッコいいからと選んでくれた髑髏のシルバーリングをはめて出かける。
「うーむ、今日の俺、カッコいいな!」
玄関に備わる姿見に小さく投げキッスをおくり、ドアを開ける。
ちゃんとした投げキッスは彼女のためのものだ。
……早くリアラに会いたい。
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