30分の邂逅 2

「あの…あなたも魔獣の姿になれるんですよね?見せてもらっても、いいですか?」

なるほど、お願いとはそういうことか。彼女も魔獣の姿になれるのなら、自分の魔獣の姿が気になるのだろう。彼は快く頷く。

「いいぜ、それくらいお安い御用だ」

「…!ありがとうございます!」

ぱあっと目を輝かせたリアラの表情がこちらの彼女と全く同じで、やっぱり同じ存在なんだな、と笑みが零れる。ソファから立ち上がって自分の恋人の方へと回り込むと、彼は一瞬の内にその身を変えた。

「わあ…!」

先程の自分の恋人と同じ感嘆の声を上げるリアラ。恋人の撫でる手を目を閉じて受け入れていると、あの…と向かいからおずおずと尋ねる声が聞こえてきた。

「触っても、いいですか?」

「いいぜ」

少し歩いてリアラとの距離を縮めると、リアラはソファから立ち上がってゆっくりと自分の目の前にしゃがむ。そうっと伸ばされた手が頭に触れた。

「わ、ふわふわ…」

最初はぎこちなかったが、慣れてきたのか撫でる手は頭から背中へ移り、何度も往復している。その手つきは自分の恋人と同じで、ゆっくりと優しい。その心地よさに彼は目を閉じてグルル、と喉を鳴らす。

(…おっと)

ふいに視線を感じてそちらを見ると、こちらの自分が不機嫌そうに目を細めている。

「そろそろいいか?」

「あ、はい」

怒らせるのはごめんだ。そう思ってリアラに尋ねると、リアラは頷いて手を離す。さて、元の姿に戻るか、と彼が思った、その時。

「…あら」

何かに気づいたように、恋人が声を零す。声には出さなかったが、自分も含め、その場にいた全員が気づいていた。四人は一斉にある方向を見る。

「これは…」

「見た目はブラックホール、だな。だが、こんなところに現れるとは…」

覗き込んだ先にはダンテの言う通り、ブラックホールがあった。…キッチンに繋がる入口のすぐ横、バーカウンターの内側に、だが。

「けれど、これで元の世界に帰れそうね」

『だな。もう少しこっちの俺達と話がしたかったが』

恋人の言葉に頷きながら、名残惜しそうに彼は言う。そう、帰る道が開かれたということは、ここでお別れだということ。恋人の言葉に彼女は苦笑する。

「それは仕方がないわ、時間には限りがあるもの。…さ、私達の世界に帰りましょう」

『…そうだな』

彼女の指示で小さな魔獣の姿を取ると、彼は恋人の肩に飛び乗る。彼女はリアラとダンテの方を振り返ると、深々とお辞儀をした。

「短い時間だったけれど、お世話になりました。ありがとう。いろいろとお話を聞けて楽しかったわ」

「私もお二人のお話を聞けて楽しかったです。どうかお気をつけて」

「ありがとう。…リアラ」

もう一人の自分に呼ばれ、リアラは彼女の側に行く。手を添えて、彼女はリアラの耳元に口を寄せると、こう言った。

「『彼』と一緒なら、幸せになれるわ。…幸せに、なってね」

「!」

目を見開くリアラに彼女は微笑むと、一歩距離を取る。

「じゃあね、もう一人の私達」

『仲よくしろよー』

トッ、と地を蹴ると同時に彼女は杖を振る。ふわりと身体が宙に浮いて、カウンターを越える。そのまま吸い込まれるように、肩に乗せた彼と共に、彼女の身体はブラックホールに消えていった。

「…行っちゃいましたね」

「…ああ」

ブラックホールの消えた床を見つめ、リアラは呟く。

(幸せになってね、か…)

彼女が言った言葉を思い返す。自分達の幸せを願ってくれたその言葉に、リアラも元の世界へと帰っていった彼女達に言葉を贈る。

(幸せに、なってくださいね)

どうか、自分達と同じ存在の二人が幸せになりますように。祈るように目を閉じてその言葉を心の中で言うと、リアラは踵を返す。

「さて、お茶を淹れ直しましょうか。お菓子も用意しますね」

そう言ってキッチンへ向かおうとしたリアラだったが、後ろから伸ばされた腕に捕まって動けなくなる。ギュッと密着するようにくっつかれ、リアラは上を見上げる。視線の先には少し不機嫌そうに口を引き結ぶダンテの顔があった。

「ダンテさん?」

「……」

むすっとしたままリアラを見つめ、ボソリとダンテは呟く。

「…そんなに、あっちの俺の触り心地はよかったか?」

リアラは目を瞬かせると、ああ…と納得する。魔獣の姿だったとはいえ、他の男性に、加えてもう一人の自分に楽しそうに触れていたとなればいい気はしないのだろう。くすりと笑って、リアラはダンテの頬に触れる。

「ダンテさん、私が好きなのはダンテさんだけですよ、信じてください」

目をちゃんと見て、リアラは想いを伝える。異性として好きなのは目の前にいる人だけだ。

「どうしても信じられないのなら、何回だって好きって言います。好きです、ダンテさん」

「……リアラには敵わないな」

はぁ、とため息を吐き出して、ダンテは苦笑する。チュッ、とリアラの額にキスをして、ダンテも想いを伝える。

「好きだ、リアラ」

「私もです、ダンテさん」

見つめ合った二人は、幸せそうに笑みを溢した。


***
30分の邂逅
2018.8.3〜8.31

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