silver cat

「…どうしたんですか、その姿」

思わず指差し、リアラは呟く。
朝、昨夜に依頼が入り出かけていたダンテが戻ってきたためリアラは出迎えたのだが、帰ってきたダンテの頭上には人間ならありえない物が付いていた。―猫の耳だ。
あー、と頭をガシガシ掻きながら、困ったようにダンテが答える。

「依頼で倒した悪魔が猫の姿をした奴だったんだが、倒れる寸前に呪いをかけられてな、こんな姿になっちまった」

本来なら完全に猫の姿になってしまうらしいのだが、半分悪魔の血をひくためか、こんな中途半端な姿になってしまった。
正直こんな姿など誰にも見られたくなく、依頼人にさっさと依頼完了の報告をし、依頼料をもらって帰ってきた。朝早くとはいえ人目につくかもしれず、事務所の玄関に着くギリギリまで建物の屋根を伝って帰ってきたのだ。
事の経緯を聞き、リアラは同情する。

「それは、大変でしたね…」

さすがにこんな姿など、誰にも見られたくないだろう。自分だって、満月の時のあの姿を見られたくない。
労りの気持ちを込めて、リアラは言う。

「疲れたでしょう、お風呂に入ってきたらどうですか?私はその間に朝ご飯を作りますから」

「そうさせてもらう」

ぐったりした様子で風呂場へと向かうダンテを見送り、リアラは朝食を作るためにキッチンに向かった。

昼下がり、洗濯物を干し終えたリアラが二階から下りてくると、ソファでダンテが横になっていた。
洗濯籠をソファの横に置くと、リアラはダンテに話しかける。

「こんなところで寝てたら、誰かに見られちゃいますよ」

「動くだけでも変な感じがするんだ、だから動きたくない」

げんなりとした様子でダンテは答える。
お決まりの場所で雑誌を読むにしろ、銃の手入れをするにしろ、何をしても後ろにある尻尾が邪魔で落ち着かないし、いつもより高い位置にある耳が音を拾う感覚は奇妙で物事に集中することができない。そうしている内に何もやる気がなくなってしまい、ソファで寝転がっているというわけだ。

「この姿の大変さがよくわかった。あの姿でよく普段と同じ生活ができるな」

「私はもう何回もあの姿になってますから…。それに、そんなに違和感もなかったですよ」

リアラは苦笑する。
10年も前から、月に一度あの姿になるのだから、もう慣れたものだ。それに、魔獣化した時とそれほど変わらない。まあ、元から違和感など感じたりはしなかったが。魔狼の血をひくからだろうか。
それにしても、とリアラは思う。

(耳も銀色なんだ…)

自分が魔狼の姿になった時は白い毛並みのため、満月の時にあの姿になると髪色と違ってとても目立つのだが、ダンテの頭に付いた猫耳は髪と同じ銀色で、全く違和感がない。
リアラは思わず手を伸ばす。

「!」

頭と耳を撫でられ、驚いたダンテはリアラを見上げる。

「あ、ごめんなさい、つい…」

「…いや。意外と、気持ちいいな」

そう、気持ちいいのだ。もっと撫でられたいと思ってしまうくらい。
魔狼姿のリアラを撫でると、彼女はよく気持ちよさそうに目を瞑っているが、その気持ちがわかった気がする。

「…ちょっと、隣に座ってくれるか」

ソファに隙間を作り手招いてくるダンテに首を傾げながらも、リアラは言われる通りにダンテの隣に座る。すると…。

ポフッ

「!」

ダンテがリアラの膝に頭を乗せたのだ。膝にかかる重みに、リアラは戸惑う。

「あ、あの、ダンテさん…?」

「しばらくこのままでいてくれ。ちょっと寝たい」

そう言うと、ダンテは一息つく。
氷を操る魔狼の血をひくため、リアラは他の人より少し体温が低い。とはいえ冷たいわけではなく、ほんのりと温かみを感じるからさほど違和感は感じない。何より、女性ゆえの柔らかさがあって寝心地がいい。

「……」

少し考え込んだリアラは、ゆっくりと手を伸ばし、ダンテの頭を撫でる。耳も撫でてやると、眠くなってきたのか、徐々に瞼が下がっていく。しばらくすると、ダンテは寝息を立てながら眠ってしまった。耳は伏せられ、尻尾はゆらりゆらりと揺れている。

(今日は暖かいし…たまには、いいか)

そう考え、ダンテの頭を撫でながら、リアラは穏やかな時間を過ごした。





silver cat
(…かわいい、かも)
2.23〜4.3

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