時々は
「おはよう、リアラ」
「おはようございます、ダンテさん」
朝、いつもの挨拶を交わし、ダンテが二階から下りてきた。相変わらず眠そうにあくびを噛み殺しているダンテにリアラは苦笑する。
「顔を洗ってきたらどうですか?少しは目が覚めますよ」
「ん、そうする」
頷いて風呂場に消えていくダンテを見送って、リアラは調理を再開する。今日の朝食はミネストローネとレタスを添えた目玉焼き、朝早くに買ってきた焼きたてのパンだ。
味見をしようとリアラがミネストローネの入った鍋からお玉で小皿に一口分掬っていると、キッチンの入口からひょこっとダンテが顔を出した。
「いい匂いだな」
「味見してみますか?」
リアラがミネストローネの入った小皿を差し出すと、それを受け取り、ダンテは小皿に口をつける。
「ん、うまい」
「そうですか、よかったです」
ダンテから小皿を受け取りシンクに置くと、リアラは棚からスープ用のカップを取り出し、ミネストローネを注いでいく。
ふいに、ダンテがポツリと呟いた。
「本当、料理上手いよな。俺にはできねえ」
「毎日練習してればできますよ」
「そんなもんかね」
感心しつつダンテは言うと、何か運ぶか?、とリアラに尋ねる。
「じゃあ、今入れたスープを運んでもらえますか?」
「わかった」
頷いてダンテがスープを居間に運ぶのを、何か考えるようにリアラは見つめていた。
*
「ね、ダンテさん、一緒にお昼ご飯作ってみませんか?」
「俺が一緒に?」
もうすぐでお昼になろうかという頃、机に組んだ足を乗せ、椅子に深々ともたれかかって惰眠を貪っていたダンテに、リアラが話しかけてきた。
午前中に一人で買い物に行ったリアラは楽しそうな顔で帰ってきて、ダンテは不思議に思っていた。何かいいことでもあったのだろうかと思っていたのだが、まさか、このことだろうか。
「俺は料理なんてほとんどできないぞ」
「でも、やったことはあるんですよね?」
「それは、そうだが…」
「そんなに難しいのはつくりませんよ。ね、せっかくだからやりましょう」
目の前のリアラはキラキラと目を輝かせていて、何だか断るのは気が引ける。
しばらく悩んだ末、ダンテはため息をついて頷いた。
*
「今日はペペロンチーノを作りますね。ダンテさんには下拵えを手伝ってもらいます」
「下拵えって、材料切ったりってことか?」
「はい」
頷くリアラの視線の先には、いつもの服に黒いエプロンを着けたダンテの姿。買い物に行った時にリアラが買ってきた物だ。
「じゃあ、まずは材料を切ってもらえますか?包丁、使えますよね?」
「ある程度はな」
「なら、大丈夫ですね」
リアラはキッチン内にある小さなテーブルに包丁とまな板を置くと、冷蔵庫からにんにくとベーコン、鷹の爪を取り出す。一度どのように切るか実際にやって見せると、リアラは包丁をまな板の隅に置く。
「じゃあ、お願いしますね。私はパスタを茹でるお湯の準備をしますから、終わったら呼んでください」
「わかった」
頷き、リアラが棚から鍋を取り出すのを見ながら、ダンテは包丁を手に持つ。
一時期、自分で料理を作っていたことはあるがそれも数える程度で、やらなくなってからもう数年経っている。いつも持っている剣と用途も大きさも違うこれを上手く使えるかどうかはわからないが、一度リアラが実際にやって見せてくれたのだ、何とかなるだろう。
先程のリアラの切り方を思い出しながら、ダンテは材料を切っていく。多少不揃いながらも何とか切り終えて、久しぶりにやったにしては上出来だろう、と思いながら、ダンテはリアラを呼んだ。
「リアラ、終わったぞ」
「あ、ありがとうございます」
リアラは振り返るとダンテのいるテーブルに近づく。
「きれいに切れてますね。数える程度しかやってないって言う割にはよくできてるじゃないですか」
「だろ?」
自信満々に笑うダンテにくすりと笑みを溢しながら、リアラは材料の乗ったまな板と包丁を持ち上げる。
「じゃあ、ソースを作りますね。こっちに来てください」
「ああ」
リアラについてダンテが調理台の前に来ると、コンロの前に立ったリアラが調理台に置いていたパスタを手に取る。
「次はパスタを茹でてる間にソースを作ります。まずはパスタを鍋に入れますね」
そう言うと、リアラはパスタを湯の入った鍋に入れ、棚からフライパンを取り出す。フライパンを火にかけ、オリーブオイルを入れるとダンテに指示する。
「ここににんにくを入れてもらえますか?」
リアラの指示通りにダンテがフライパンににんにくを入れると、リアラは中火で炒め始める。にんにくに色が付いたのを見計らい、鷹の爪とベーコンを入れて再び炒める。
「ベーコンから油が出始めたら、ここに砕いたコンソメを入れます」
「コンソメ入れるのか」
「コンソメを入れるとおいしくなるんですよ」
そう言って笑うと、リアラはソースを味見する。そして、パスタの湯で上がり具合を確認するとざるに取り出して湯切りし、フライパンに入れてソースを絡める。
「はい、完成です。ダンテさん、そこの棚からお皿出してください」
ダンテが言われた棚から白い皿を二人分取り出すと、リアラはそこにパスタを盛りつけていく。
「うまそうだな」
「けっこう簡単でしょう?材料もそれほど要らないし、ダンテさん器用だからすぐにできるようになりますよ」
にこっと笑ってできた料理を運ぶリアラを見ながら、ダンテはポツリと呟く。
「…たまには、」
「?」
「たまには、いいかもな。…こういうのも」
ダンテの言葉にリアラは目を見開くが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「さ、冷めないうちに食べましょう」
「そうだな」
リアラに促され、ダンテも居間へ向かった。
時々は
(…うまい)
(自分も手伝ったからよりおいしいでしょう?デザートはストロベリーサンデー作りますね)
(…俺も手伝う)
(!…はい!)
2.3〜2.22
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[mokuji]
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