それは控えめで、ささやかな

「うーん…」

穏やかな日差しが降り注ぐ昼下がり、ある店にいたリアラは目の前の物を見て唸っていた。
リアラの目の前にあるのは、木製の枠にガラスが張られた三段組の小さな棚だった。どうやら色違いの二つを見ているらしく、一方は木枠が白く塗られており、もう一方は木の色そのままだった。

「白も好きだけど、こっちの方がいいかなあ…木の色そのままっていう感じで」

顎に手をあてたまま、リアラは呟く。
白はリアラの好きな色だが、家具でその色の物を買うことはほとんどない。だから、家具で選ぶのは大体木の色そのままの物だ。
ただなー、とリアラは一人ごちる。

「買っても置く場所ないし…ティーカップ置くだけだし…」

そう、リアラが棚に入れようとしているのはティーカップ。母親の影響で紅茶が好きな彼女は様々なティーカップを眺めるのも使うのも好きで、時々店で眺めてたりもする。フォルトゥナの実家にもお気に入りのティーカップが二つある。
ただ、旅をしている間に空いた時間でティーカップを眺めるような考えなどなかったし、ダンテの事務所に住み始めてようやくこういう時間を取れるようになったため、自分用のティーカップなど事務所には一つもないのだ。


「居候って立場で私物増やしてもなあ…」

目の前の物から違う方向へと悩みがずれてしまっているが、以前唸ったままのリアラ。
きっと、買ったとしてもダンテは怒らないだろう。自分で買った物なんだから、好きにすればいい 、そう言う気がする。だが、リアラとしては住まわせてもらっているだけで十分で、お礼に家事をこなすのは当たり前のことだ。それ以上何かを望もうなどとも思っていない。
はぁ、とため息をつき、リアラは立ち上がる。

「いいや…買ってもしょうがない」

見るだけで十分。そう自分に言い聞かせて、リアラは店を後にする。
去っていくその後ろ姿を、見慣れた赤いコートが見つめていた。

「リアラ、ちょっと出かけないか?」

依頼から帰ってきて早々に言うダンテに、リアラは目を瞬かせる。

「出かける?今からですか?」

「ああ。ちょっと買いたい物があってな」

お前と相談したいんだが、いいか?とダンテは尋ねてくる。そういう理由なら、とリアラは頷く。

「いいですよ」

「決まりだな。じゃあ出かける準備しておいてくれ」

そう言われ、素直に出かける支度をしたリアラを連れて、ダンテは事務所の扉を開けた。

―30分後。

「ダンテさん、これって…」

連れられて来た店の中でダンテが指し示した物に、リアラは目を見開く。
それは、つい二時間前に自分が見ていた、あの小さな棚だった。

「お前、さっきこの店でこれ見てたんだろ?」

「何で知って…」

「依頼の帰りに、たまたまこの店から出てくるお前を見かけてな。店に入って店員に聞いたら、お前がこれ見て悩んでたって言ってた」

だから、お前を連れて来ようと思ってな、と言うダンテに、リアラはポツリと呟く。

「だから、帰ってきてすぐに連れてきてくれたんですか…?」

「まあ、思いついたらすぐ行動に移した方がいいだろ」


ニヤリと笑うダンテに、リアラは思わずくすっと笑みを溢す。
ダンテは目の前の二つを指差し、リアラに尋ねる。

「で、どっちがいいんだ?」

「そうですね…こっち、かな」

リアラが指差したのは木の色そのままの棚。そうか、と頷くとダンテは近くにいた店員を呼び、その棚を指差す。

「これ、もらえるか」

「え」

リアラが驚いている間に店員は頷いて棚をレジへと持っていく。そのままレジに向かおうとしたダンテの服の裾を掴み、慌てたようにリアラは言う。

「ダ、ダンテさん、買うなら自分で…!」

「いつもいろいろやってもらってるんだ、たまにはいいさ」

そう言うと、ダンテはリアラの頭をくしゃりと撫でる。

「お前は遠慮しすぎだ、たまには甘えろ」

「あ、えっ、と…」

困ったように視線をさ迷わせるリアラに、ダンテは苦笑する。

「家族なんだから、遠慮しなくていい」

「…」

リアラはダンテを見つめると、こくりと頷く。それに優しく笑うと、ダンテはリアラの手を引いてレジに向かった。






それは控えめで、ささやかな
(ダンテさん、行きたいお店があるんですけど、いいですか?)
(何か買うのか?)
(はい。せっかくすてきな棚を買ってもらったので、自分用のティーカップと、)
(?)
(それと、ダンテさん用のマグカップを買いに。ダンテさんの好きな赤で、すてきな物があったので)
(!まったく、お前は…)
11.30〜2014.1.1

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