その言葉は

※夢主がダンテの事務所に暮らし始めてから一ヶ月程




「ったく、胸くそ悪い奴だった」

舌打ちをしながらダンテは歩く。
ただ今、依頼を終えて帰路についているところだ。すでに辺りは真っ暗になっていて、道の両側にある街灯が仄かに足元を照らすのみ。

「…っくそ」

先程の出来事を思い出してイライラが増し、ダンテは頭をぐしゃぐしゃに掻き回す。
今回の依頼は、墓場をうろつく悪魔を狩ってほしいという依頼だった。今までその墓場に行った者が皆悪魔に会い、精神的に恐ろしい目に会ったらしい。
日が暮れる頃にその墓場に行くと、案の定目的の悪魔はいた。大して強くもなかったため、それほど時間もかからずに狩ったのだが…。

「…まさか、またあの光景を見せられるとはな」

はぁ、とダンテは深いため息をつく。
どうやら相手にした悪魔は相手の記憶を探り、辛い記憶をフラッシュバックして見せる能力を持っていたらしく、ダンテも標的にされた。
フラッシュバックしたのは、小さい頃に目の前で悪魔に殺される母親の姿、そして、テメンニグルで戦い、魔界へ落ちていった双子の兄の姿。それに怯んだダンテの隙をついて悪魔が一撃浴びせたものの、それはダンテの怒りを買うことになった。
気づいた時には魔人化して、悪魔にリベリオンを突き立てていた。

「…情けねえ」

いくら辛い記憶だったとはいえ隙を作ってしまい、怒りに任せて魔人化してしまうとは。
ただ、唯一よかったと思えるのは。

(この依頼を受けたのがあいつじゃなくてよかったな…)

ダンテは事務所で待っているであろうリアラの姿を思い浮かべる。
10年経った今でも目の前で悪魔に母親を殺された日を夢で見てうなされているというのに、その記憶をフラッシュバックで見せられたら魔力を暴走させてしまうかもしれない。
目の前に見えてきた事務所を見て一度深呼吸し、ダンテは気持ちを切り換える。

(こんな顔、あいつには見せられねえからな。心配させないようにしねえと)

いつもの余裕のある表情を装い、ダンテは事務所の扉を開けた。

夕食の用意を済ませ、ソファに座って待っていたリアラは扉の開く音に顔を上げた。

「お帰りなさい、ダンテさん」

「ああ」

笑顔でダンテに近づくと、リアラはダンテを見上げる。

「遅かったですね。強い悪魔だったんですか?」

「いや、大したことない奴だった。ちょっとゆっくりめに歩いて来たから、時間がかかっちまった」

「そうですか」

ダンテの言葉に頷いたリアラは、ふいに動きを止めた。

「…怪我、したんですか?」

すん、と鼻を鳴らし、自分の腹部を見るリアラ。
上手くコートで隠したつもりだったが、魔狼の血をひく彼女は鋭い嗅覚で血の匂いを嗅ぎとってしまったのだろう。ダンテは何とも言えない顔をする。

「…まあな。けど、もう治ったから心配いらない」

これだけでも心配そうな顔をするのに、辛い記憶を見せられたなどと言えるわけがない。じっと自分を見つめるリアラから視線を逸らすように、ダンテはリアラの頭に手を置く。

「とはいえ、血は付いたまんまだしな。シャワー浴びてくる」

「…そうですか。わかりました」

頷くと、通り過ぎようとしたダンテにリアラは微笑みかける。

「なら、お風呂上がった後に、お茶にしましょうか」

思いもしなかった言葉に、ダンテは目を見開く。もう夕食の支度もできているというのに、なぜお茶にするというのか。

「…飯が冷めちまうぞ」

「また後で温め直せばいいですから」

そう言うと、苦笑してリアラは告げる。

「お茶飲みながらゆっくりした方が、少しは落ち着くでしょう?」

その言葉にダンテの動きが止まる。目の前のアイスブルーの瞳が揺らいだのを、リアラは見逃さなかった。
一度目を閉じてから、再びダンテに微笑みかけ、リアラは口を開く。

「タオル用意しますね。ゆっくり入ってきてください」

その間にお茶の準備をしますね、と告げ、キッチンに向かおうとしたリアラに何かが覆い被さった。少し視線をずらせば、見えるのは銀色の髪。

「…ダンテさん?」

「……」

腰に回された腕に力が込められる。いくらか間を置いた後、ダンテは口を開いた。

「…あのな、」

「…はい」






その言葉は
(隠さなくていいと、言われているような気がした)
11.8〜11.29

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