もしも、 4

「ねぇ、リアラ。もういっこだけ聞いてもいい?」

「うん。何?」


リアラが頷くと、ダンテは少し言い辛そうにしながら続けた。


「もし、もしもだよ?立場とか歳的に恋をするのが難しい人を好きになったら、リアラはどうする?」

「え?」


驚いたようにリアラは目を見開く。思わず俺はダンテの顔を見る。
ダンテは真剣な表情でリアラを見つめている。一体どういうつもりなんだ?
んー…と悩みつつ、リアラは少しずつ答えていく。


「…たぶん、すごく悩むかな。周りの目もあるし、相手の立場もあるわけだし。相手を困らせたくないし」


でも、とリアラは続ける。


「『好き』って気持ちは、大事だと思う」

「何で?」

「人を好きになれるって、すごくいいことだと思うから」


彼女の言葉に、ダンテのみならず、俺も目を見開く。


「その時になってみないとわからないけれど、『好き』って気持ちは持ち続けるかな」


答えになってなくてごめんね、と苦笑する彼女に、ダンテはぶんぶんと首を振る。


「そんなことない。ごめんね、こんなこと聞いて」

「ううん、気にしなくていいよ」


ひらひらと手を振ると、彼女は店にあった時計を見上げる。


「もうこんな時間か。そろそろ帰らなきゃ」

「送っていこうか?」

「大丈夫、私の家ここから近いから」


鞄を持って立ち上がり、レジでお金を払うと、リアラはこちらに向かって手を振る。


「じゃあね、また明日」

「おう」

「またねー!」


にこりと笑ってリアラは店を出ていった。チリン、とベルの音が響く。
彼女が出てしばらくした後、俺は口を開いた。


「…で、何であんなこと聞いたんだ?」


隣りに座っているダンテに問いかける。
ダンテがあんな真剣な顔をして尋ねたんだ、何か訳があるんだろう。
ダンテは言い辛そうにしながらも、素直に答えてくれた。


「ええっと…その、世界史の先生いるでしょ?私の親戚の人」

「?ああ」


なぜその話になるのか疑問に思いながらも、俺は頷く。
ダンテの言うその親戚は、何の偶然か、俺達の通う学校で世界史の先生をしている。しかも、ダンテと全く同じ名だ。
ダンテとその先生が親戚だと知った時はかなり驚いたが、言われてみれば確かによく似ている。ダンテが男だったら、もっと似ていたかもしれない。


「実はおじさんの両親、リアラの両親と知り合いらしくて…。おじさん、前からリアラのこと知ってたみたい」

「まじでか」

「うん」


そんなことあるのか、と俺は驚きを隠せない。
でね、とダンテは続ける。


「時々、おじさんと話したりするんだけど、おじさん、最近リアラのことが気になるみたいで…」


は?ちょっと待て。


「それ、もしかしなくとも好きってことじゃないのか?」

「うん、私もそう思う」

「それ、本人に聞いたのか?」

「ううん、でも見てればわかるよ」


おじさん、リアラの話になるとため息ついてばっかりだもん、と言うダンテの言葉に、俺は頭を抱える。


「もしかして、あの質問をしたのは…」

「うん、リアラの考えを聞きたかったから」


思わず、大きなため息をついた。

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