もしも、 1

「お」


放課後、たまたま職員室の前を通った時だった。職員室から一人の女の子が出てきて、一度中に向かって頭を下げる。そして踵を返した時、俺と目が合った。


「あ、鈴君」

「お疲れ、リアラ。委員会の仕事か何かか?」

「うん、クラス分の古文の課題を出しに」

「そうか。一人で大丈夫だったのか?」

「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」


そう言って、にこりと笑う彼女。
彼女−リアラは同じクラスの同級生で、副委員長をやっている(ちなみに委員長はバージルだ。言わずもがな、めちゃくちゃ厳しい)。
真面目で努力家な彼女は成績がよく、それに加えて感情を表に出すのが苦手なのか表情があまり変わらないため、バージル同様クールな子だと思われがちだが、親しくなればこうやって笑顔を見せてくれる。相手のことを気遣う優しいところもあるし。
いや、それにしたって笑顔かわいいよな、知らない奴等もったいねぇよな、こんなにかわいい顔するのに。
そんなことを考えている俺に、リアラが話かけてきた。


「鈴君は何してたの?」

「俺?教室でダンテ待ってたんだけど、トイレ行きたくなって、その帰り」

「ダンテを?一緒に帰るの?」

「まあ、そんなところ」


一緒にストサン食って帰りたいんだと、と俺が答えると、リアラはそっか、と言ってくすくすと笑った。


「どうかしたか?」

「ううん、仲いいんだなあって」


そう言うリアラに、あー、まあ、と俺は曖昧に答える。
俺とダンテが恋人同士なのを彼女は知っているから肯定してしまえばそれでいいはずなのだが、他人から言われると何だか恥ずかしい。
そう考えていたら、後ろから聞き慣れた声がかかった。


「鈴っ!」


振り返ると、待ち人であるダンテが鞄を片手にこちらへと走ってきていた。


「こんなところにいたんだ。もう帰っちゃったのかと思った」

「俺が約束破るわけないだろ」


そうだね、と笑顔で言うダンテにつられて、俺も笑みを返す。
ダンテは俺の後ろにいたリアラに気づくと、こてりと首を傾げた。


「リアラ。こんな時間までどうしたの?」

「古文の先生にクラス分の課題を出しに来てたの」

「そっかぁ、お疲れ様」

「ううん、そっちこそ部活だったんでしょ?お疲れ様」


にこりと笑ってリアラは言うと、俺を見上げて口を開いた。


「じゃあ、用事も済んだし、私帰るね」


また明日、と言ってこちらに背を向けたリアラをダンテが呼び止めた。


「あ、待って、リアラ!」

「?」


不思議そうにこちらを振り向いた彼女に、ダンテは笑顔で言う。


「今から鈴と一緒にストサン食べに行くんだけど、よかったら一緒に行かない?」


ダンテの言葉にリアラは目を見開く。予想もしていなかった言葉だったため、俺も彼女と同じ反応だった。
珍しい、ダンテが俺といる時に他の子を誘うなんて。
少し困惑したようにリアラが口を開く。

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