何もかもが上で 8

事務所に着き、荷物を整理した後、リアラはさっそくキッチンに立った。ダンテはキッチンに立つリアラの後ろ姿を見つめる。
鼻歌を歌っているところから考えるに、とても機嫌がいいらしい。


(泣かせちまったお詫びと思って外に連れ出したが…あれだけ喜んでもらえるなら、たまにはいいかもな)


珍しく感情を表に出しているリアラにくすりと笑みを浮かべながら、ダンテはポケットからあの店で買った物を取り出す。
包みをじっと見ていると、リアラがキッチンから顔を出した。


「ダンテさん、できましたよ」

「ああ」


素早く包みをポケットに戻し、ダンテは答える。
リアラはトレーを持ってダンテのいる事務所のテーブルまでやってくると、その場に膝をつき、マドレーヌの入った皿を置く。次いで二人分のカップを置き紅茶を注ぐと、ダンテの前に置いた。


「ありがとな」

「いいえ」


ふわりと笑い、リアラはトレーを持って立ち上がり、キッチンへと持って行く。エプロンを外して戻ってきたところで、ダンテが声をかけた。


「リアラ、ちょっとこっちに来てくれ」

「?はい」


不思議そうに首を傾げながらリアラがダンテの元に来ると、ダンテはリアラの腕を引っ張った。


「わっ!?」


突然のことに身体のバランスを崩したリアラを受け止め、ダンテは彼女を自分の膝に乗せた。


「ダ、ダンテさん!?」

「ちょっとじっとしてろ」


顔を真っ赤にして自分の方を見やるリアラにダンテは言う。
それに従ってリアラが大人しくしていると、髪を束ねていたゴムを外され、ふわりと自分の髪が落ちる。だがすぐに髪をまとめて掬い上げられ、リアラが内心首を傾げていると、パチン、と何かを留めた音がした。


「いいぞ」

「?…!」


ダンテに言われ、リアラが音のした辺りに手をやると、硬い物が手に当たった。先ほどの音と形からしてバレッタだろう。
驚きに目を見開くリアラに、後ろから聞き慣れた声がかかる。


「お前が服を買った店で見つけたんだ。似合うと思ってな」


いつものお礼だ、と言われ、リアラは戸惑う。


「そ、そんな、私大したことしてな…」

「いや、いろいろしてもらってる。食事の準備や事務所の掃除、あとは仕事のパートナー、とかな」


いつも助かってる、と告げられ、リアラは恥ずかしそうに視線をさ迷わせる。
やがて、リアラは小さな声で呟いた。

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