おじさん編 2
「ダンテ?」
「…雪菜、やってみたい髪型とかあるか?」
「へ?」
突然言われ、雪菜は戸惑うが、ダンテの視線が自分の手元にある雑誌に注がれているのに気づき、納得する。
「そうだなあ…これとか」
雪菜はある写真を指差す。その写真には髪を団子にして後頭部に纏め上げていて、団子の周りをみつあみした髪で留めているモデルが載っていた。
ふうん、とダンテはその写真をじっと見ると、雪菜に言った。
「雪菜、ヘアピンとヘアゴム、あと鏡持ってこい」
ああ、あとあればリボンもな、と言うダンテに雪菜は首を傾げる。
「何で?」
「いいから」
ダンテに急かされ、渋々雪菜は立ち上がり、自室へと消えていく。しばらくして言われた物を持って居間へと戻ってきた。
「持ってきたよ」
「よし、じゃあここに座れ」
先ほど自分が座っていた場所を示され、雪菜は素直にそこに座る。
「鏡と雑誌、そこに置いとけ」
「う、うん」
何が何だかわからないまま、雪菜は頷き、テーブルの上に先程持ってきた物の隣りに鏡と雑誌を置く。
「しばらくじっとしてろよ」
「うん…」
雪菜が頷くと、ダンテは雪菜の黒髪を掬い上げた。
雪菜がじっとしている間、髪をまとめたり、髪をピンで留めたりする気配が伝わってくる。
(もしかして…)
雪菜がダンテのしていることに気づいたころ、ようやく彼が手を止めた。
「できたぜ」
鏡貸してみろよ、と言われ、雪菜が鏡を渡すと、ダンテは雪菜の横に鏡をつけて、彼女に見るように促した。
雪菜が鏡を見てみると、
「!」
雪菜は目を見開く。
自分の髪型が先ほどの雑誌に載っていた写真のモデルと同じになっている。ただ一つ、写真のモデルと違うのは、団子にまとめられた髪の下に赤いリボンが結ばれていることだ。
雪菜の表情に満足そうな笑みを浮かべ、ダンテは言う。
「似合ってるじゃないか」
「あ、ありがとう…」
褒められたことが照れくさくて、雪菜は顔を真っ赤にして俯く。そんな彼女の頭を撫でていたダンテだが、ふいに身体中がざわりと逆立つような感覚に襲われた。
(…っ、もう時間か…)
顔を歪め、チッとダンテは舌打ちする。そんなダンテの様子に気づいた雪菜は顔を上げる。
「ダンテ?」
「もう時間、みたいだ…」
元の姿は半日とももたない。せいぜいもって四時間ほどだ。
(もう少し、この時間を楽しみたかったんだがな…)
まあ、彼女の喜ぶ顔が見られただけでいいか、とダンテが目を閉じた、その時。
「!」
「……」
ふいに唇に柔らかい感触を感じてダンテが目を開けると、すぐ目の前に雪菜の顔があった。身体のざわつきが治まってからもしばらくその体勢のままで、ようやくお互いの唇が離れた時、雪菜は先程より顔を真っ赤にしていた。
ダンテは驚きに白い耳をピン、と立てたまま、思わず尋ねる。
「…何で」
「…別に。ただ、ダンテが寂しそうな顔してたから」
呟かれた雪菜の言葉にダンテは目を見開いたが、やがてフッ、と笑みを溢した。
「…ありがとな」
「…うん」
先程のようにダンテが雪菜の頭を撫でていると、雪菜がダンテを見上げて言った。
「ねえ、ダンテ。夜の散歩、行こ」
「今からか?悪魔が出るかもしれないぞ?」
ダンテが言うと、雪菜は微笑む。
「その時は、ダンテが守ってくれるでしょ?」
「…それもそうだな」
ダンテが笑うと、雪菜は笑みを深め、立ち上がる。
「じゃあ、着替えてくるからちょっと待ってて」
「ああ」
自室へ向かう途中、雪菜は後ろを振り返る。
よほど機嫌がいいのか、ダンテは鼻歌を歌っている。それに合わせて、白い尻尾まで嬉しそうに揺れている。その姿にくすり、と笑みを漏らして、雪菜は自室に入る。
(髪を崩さないように着替えなきゃね)
せっかくダンテがきれいにしてくれたのだ。崩したくない。
それに。
(ダンテに髪をきれいにしてもらったから散歩に出かけたくなったって言ったら、ダンテ、どんな顔するかな)
その時の彼の顔を思い浮かべて、再びくすりと笑みを漏らすと、雪菜は服を選び始めた。
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