初代編 2
「傷見せて」
ダンテをお風呂に入れた後、タオルで元の姿に戻ったダンテの髪を拭いていた雪菜は言う。ゆっくりと自分の方に向けられた尻尾に手を添えて、雪菜は傷を診る。
(もう治ってる…)
元の姿に戻って半魔の治癒能力が働いたためか、尻尾についていた切り傷は跡形もなく治っている。
ふぅ、と雪菜は息をつく。
「もう傷の手当はいらないみたいだね」
そう言って雪菜が尻尾から手を離すと、重力に従うように、尻尾はぺたりと床についた。次いで、傍から声が響く。
「…ごめん。心配させて」
その言葉に雪菜が顔を上げると、ダンテが申し訳なさそうに俯いていた。頭の上の黒い耳もぺたりと伏せられている。
「どうして怪我なんかしたの?」
雪菜が尋ねると、言い辛そうにダンテが口を開いた。
「…その、近くの公園にある桜の木の枝を取ろうとして…登って取ったのはよかったんだけど、取った時に勢い余ってバランスを崩してな、木から落ちたんだ。幸い、急いで尻尾を枝に引っ掛けて地面に落ちずには済んだけど…」
「…何でそんな危ないことしたの?」
声を震わせながら雪菜は言う。目は潤み、今にも涙が溢れてしまいそうだ。
雪菜の様子に困り果てながら、ダンテはぽつりと呟いた。
「その…雪菜にいつも世話になってる礼がしたかったんだ」
「…へ?」
ダンテの言葉に、雪菜はぱちくりと目を瞬かせる。頬をかき、照れくさそうにしながら、ダンテは続ける。
「いつも世話になってばっかりだからな、何か礼をしようって考えてて、それで何かないかと思って外に出て…」
「もしかして、お昼に散歩に出たのって…」
「…そういうことだ」
恥ずかしいのか、あー!と頭を掻きむしり始めたダンテに、雪菜はくすりと笑みを溢す。
「…ありがとう。でも、もうこんな無茶はしないでね」
心配になるから、と言うと、ダンテは「悪い…」と詫びる。それにふるふると首を振ると、雪菜は立ち上がって言った。
「今日、ケーキ買ってきたんだ。遅くなったけど一緒に食べよ」
そう言い、台所に向かおうとした雪菜に、ダンテが声をかける。
「あ、その前にカッター持ってきてくれないか?」
「?うん」
ダンテに言われ、雪菜は居間の棚からカッターを出し、ダンテに手渡す。何をするのかと雪菜が不思議そうに見ていると、ダンテはテーブルに置いてあった桜の枝に手を伸ばし、それを取る。そして、器用にカッターで枝の折った部分を削ると、その枝を雪菜の髪に挿した。
「ああ、よく似合ってる」
自分を見てふわりと笑ったダンテにドキリとしながらもダンテの気持ちが嬉しくて、雪菜もふわりと笑い返した。
「ありがとう…」
「いや、こっちこそ、いつもありがとうな」
ダンテは雪菜の頬に手を添えて、感謝の気持ちを告げる。ダンテの手に自分の手を重ねて、雪菜は幸せそうに笑った。
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