初代編 1

「ダンテ、遅いなあ…」


時計に目をやりながら雪菜は呟く。現在、午後4時。日も暮れ始め、青い空には夕焼けの色が混ざり始めている。
お昼ごろ、ダンテはふらっと散歩に出かけてしまった。普段なら雪菜がいる時は出かけないため、雪菜は不思議に思ったが、まあ、たまには散歩に行きたい時もあるかなと思い、特に気にも留めなかった。
だが、こうも遅いとさすがに気になってくる。


「一緒にケーキ食べようと思ったのにな…」


呟き、雪菜は冷蔵庫を見つめる。
今日は仕事が昼前で終わりだったので、帰りに二人の好きな店に寄った。時期的にちょうど苺が旬で、ショーウィンドウには様々な苺のケーキが並んでいた。悩みながらも雪菜は苺のタルトを選び、二人分買って帰ってきた。
3時になったら、一緒に食べようと思ったのに。


「はぁ…」


雪菜が思わずため息をついた、その時だった。

カタン

「?」


窓の方から音がし、雪菜が顔を上げると、


「ダンテ!?」


窓の向こうに黒い猫―ダンテがいて、後ろ足で立ち、前足で窓を引っ掻いていた。
慌てて雪菜は立ち上がると窓に向かい、ガラリと窓を開けた。


「何してたの?」

「ニャー」


返事と取れるような取れないような鳴き声をあげ、ダンテは室内に入ってきた。そして、居間のテーブルの前に移動すると、そこでちょこんとお座りの体勢を取る。まるで、自分を待っているかのようだ。
不思議に思いながらも雪菜がダンテの前まで来ると、ダンテは自分にある物を差し出した。


「桜…?」


雪菜は目を瞬かせる。
ダンテが差し出したのは桜の花。いくつかの淡いピンク色の花がついた枝は、小ぶりながらも春を感じさせる。


「これ、くれるの…?」


雪菜が尋ねると、ダンテはこくりと頷く。花をそっと受け取って、雪菜は嬉しそうに微笑む。


「ありがとう…」


雪菜の様子にダンテも嬉しそうに鳴いて、尻尾を揺らす。
だが。


「ダンテ、怪我してる!」


揺れた尻尾を見て雪菜は叫ぶ。
ダンテの尻尾の先は何かで切ったような傷が走り、わずかに血が滲んでいた。よく見れば、身体には至るところに葉や草がついている。
ダンテは自分の尻尾を見やり、大丈夫だとでも言うかのような顔をする。だが、雪菜としては平気ではいられなかった。


「大丈夫じゃない!ただでさえ、元の姿の時より傷の治りが遅いんだから!」


雪菜が声を荒げると、ダンテがびくりと肩を震わせる。


「怪我の手当しなきゃ、ああ、その前にお風呂か」


おろおろとしながら雪菜はダンテを抱き上げると、急いで風呂場に向かった。

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