若編 2
「やっと終わった…」
片付けを終え、雪菜は居間で座り込む。時刻は午後3時。昼も食べないまま、おやつの時間を迎えてしまった。
最初に洗濯機の中の洗濯物を取り出し、泡だらけの洗濯機を掃除。終わったら泡だらけの洗濯物をすすぎ、もう一度洗濯し直し。次に居間の散らかった服をまとめ、洗濯し直す物はし直して、大丈夫な物は畳んで箪笥に仕舞って。雑誌を元の場所に戻し、合間に洗濯が終わった服をベランダに干して。これを繰り返して、やっといつもの部屋に戻した。
脱衣所からは未だに洗濯機の働く音が響く。あんなになってて、壊れなかったのがせめてもの救いか。
雪菜はふと、ダンテの方へと視線をやる。
ダンテは正座したまま、俯いて動かない。耳と尻尾は未だに垂れたままだ。ため息をつき、雪菜は口を開く。
「…で、どうしてこんなことしたのよ」
いい加減教えて、と雪菜が言うと、ダンテはびくりと肩を震わせ、らしくない小さな声で呟いた。
「…て…」
「え?」
「いつも世話になってるから、今日くらい何かしようと思って…」
俯いたままそう言ったダンテに雪菜は目を瞬かせる。
それは、つまり…
「私を楽させようと思って、慣れない家事をやったってこと?」
以前、ダンテから家事は苦手だと聞いたことがある。だから、家事はさせなかった。雪菜の問いに、ダンテは黙ったまま頷く。
先ほどまでの惨状の理由を知って、雪菜は苛立っていた心が穏やかに温かくなっていくのを感じた。
(まったく、無茶して…)
呆れながらも笑みを溢し、雪菜は目の前の人物に呼びかけた。
「ダーンテっ」
呼びかけに反応し、ダンテが顔を上げると同時に雪菜がダンテに抱きついた。突然のことにダンテはうろたえる。
「お、おい…」
「そんなね、無茶しなくていいの。ダンテはいつも、私を守ってくれるでしょ?」
それだけで充分だよ、と雪菜が告げると、ダンテは目を見開き、やがてふ、と笑みを溢した。
「まったく、お前にはかなわねぇな」
「そう?」
「ああ」
しばらくお互いにくすくすと笑みをもらすと、ダンテはぎゅうっと雪菜を抱きしめる。
「いつだって守ってやるさ、悪い奴からも、悪魔からもな」
「うん」
嬉しそうに頷くと、あ、と雪菜は声を上げた。
「でも、せめて洗濯だけは覚えようね?」
雪菜の言葉にダンテは「…努力する」と答える。その様子がおかしくて、雪菜は笑いながらダンテの胸元に頬を擦り寄せた。
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