若編 1
昼食の材料が入った袋をぶらさげながら、雪菜はアパートに向かって歩いていた。
「ダンテ、何してるんだろ…」
雪菜は呟く。
今朝、珍しく朝に起きたダンテは雪菜が朝食を終えた後、いつものことながらいきなりキスをしてきて元の姿に戻ったかと思えば、「今日休みだろ?せっかくだから出かけてこいよ」と雪菜を急かし、外に出してしまった。
休みとはいえ特に出かけるつもりもなかったし、急かされて出てきたので大したおしゃれもしていない。そんなので店を回って見る気分にはなれなかったので、適当に家の近くをぶらぶらして時間を潰し、昼食の材料を買って帰るところだった。
(妙にそわそわしてたけど…何かあったのかな?)
そんなことを考えている内に家であるアパートに着き、雪菜は自室のドアを開ける。
「ただいまー…」
靴を脱ぎ、短い廊下を歩いて居間に入った瞬間、雪菜は目の前の光景に絶句した。
いつも自分が整理してきれいに片付いているはずの居間は、服や雑誌が散乱し、酷い有り様になっていた。しかも、脱衣所から変な音がする。
「ま、まさか…」
嫌な予感がして雪菜が脱衣所に駆け込むと、洗濯機からありえないほどの泡が吹き出ていた。
「わあああ!!!」
思わず叫び、慌てて洗濯機を止めると、雪菜は惨状に頭を抱えた。そして、考えを巡らせる。こんなことをできるのは、自分以外にただ一人。
ゆらりと顔を上げ、居間に戻ると、雪菜はこの惨状の原因であろう名前を呼んだ。
「…ダンテ」
いつもより低い自分の声が部屋に響く。それでも出て来ない名前の持ち主に、雪菜は告げる。
「…今出てこないと、もっと怒るよ?」
間を空けずにキャン、という鳴き声が聞こえ、雪菜の部屋からびくびくしながら白い犬―ダンテが顔を覗かせた。
「ここに来なさい」
自分の足元を指差して雪菜が言うと、ダンテは素直に自分の元にやってきて、お座りの体勢を取る。見てもわかるくらいに耳と尻尾が垂れている。
「部屋をこんなにした犯人はダンテ?」
雪菜が問うと、ダンテはこくりと頷く。
「何でこんなにしたのよ…」
はぁ、と雪菜がため息をつくと、ダンテはキューン…、と申し訳なさそうに鳴いて項垂れる。もう一度ため息をつくと、雪菜はダンテを見た。
「…片付け手伝ってよね」
雪菜がそう言うと、ダンテは再びこくりと頷いた。
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