2様の場合

「ん…」


小さく身動ぎし、雪菜は目を開ける。寝起きのぼーっとする頭で、雪菜は先程までの出来事を思い出す。


(そういえば、ダンテと一緒に寝てたんだっけ…)


今日は珍しく、夕方のうちに夕食を食べ終えた。ゆったりしていた時、どうしようもなく眠くなってしまい、ダンテも巻き込んでそのままソファーで寝てしまったのだ。
そんなことを考えていた雪菜は、ふとある違和感に気づいた。


(何か、狭い…)


二人がけのソファーはそれなりの広さがあり、雪菜と猫のダンテならそんなに場所をとらないはずだ。なのに、狭い。


(それに、何か温かい…)


寝る時にダンテを抱いて寝たのだから、お腹辺りは温かいのなら理解できるのだが、今は身体全体が温かい。まるで、何かに包まれているような。 ふと頭上を見上げて、雪菜は目を見開いた。


(え、え!?)


雪菜の視線の先には、人並み外れた美貌があった。―ダンテが、白い猫から人の姿に戻っているのだ。
ということは、身体全体が温かく感じるこの理由は。


「―っ!」


今の状況を理解した雪菜は、まるで凍ったかのように動きを止めてしまう。
すると、微かな気配の変化に気づいたのか、小さくうめき、ダンテが目を開けた。何度か目を瞬かせると、雪菜に向かってふわりと微笑む。


「おはよう」

「…っ!」


優しく微笑まれ、雪菜は息を詰めると同時に顔を赤く染めた。パクパクと口を動かし、やっとのことで雪菜は言葉を発した。


「な、何で、人の姿に戻ってるの…!?」


彼女の問いにダンテは落着いた声で答える。


「今日は満月だ」


忘れたか?と言われ、雪菜は身体を起こして窓の外を見やる。窓の向こうには真円を描いた月が輝いている。


(そういえば…)


ふと、雪菜は思い出す。ダンテはキスをする以外に、唯一、満月の日だけは人の姿に戻れるのだ。
だから今日はそわそわしていたのか、と日中のダンテの様子を思い出していると、ダンテも身体を起こし、寝ていた時のように再び雪菜を抱き締めた。白い耳がピコピコと動いている。


「やっとこうすることができた」

「ダ、ダンテ…」


嬉しそうに呟き、先程より抱き締める力を強めた ダンテに、雪菜は顔を赤くしたまま、瞳をさ迷わせていたが、ふと、あることに気づく。
ダンテは、人の姿に戻るためにキスを強要するようなことはしない。だから、満月の日が唯一、人の姿に戻れる日なのだ。 でも、本当は人の姿に戻りたい時もあるのではないか。


(我慢、させちゃってるのかな…)


恥ずかしがってキスをしたがらない自分のために、自分よりもずっと年上な彼は控えてくれているのだろうか。


「!」

「…」


そう思うと、雪菜の身体は自然と動いていた。
ダンテの肩を掴み、身体を浮かせると、彼の唇へゆっくりと自分の唇を寄せてキスをした。雪菜の行動にダンテは目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべる。


「…随分と積極的だな」

「たまにはいいかと思って」


そう言うと、雪菜はダンテを見つめて言った。


「ダンテ、私に甘えていいから」


私も甘えさせて。
そう言うとダンテは目を見開いたが、すぐにフッと微笑み、雪菜の頭を自分の胸元へと抱き寄せた。


「いくらでも甘えろ」


そんなこと言わなくても、いくらでも甘えさせてやるから。
そう言ったダンテの言葉に、雪菜は素直に頷く。


「うん」


自分を抱き締め、優しく頭を撫でてくれるダンテに甘えながら、雪菜は幸せな時間を過ごした。



***
2013.2.21

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