おじさんの場合

「んーっ、気持ちよかったー」


風呂から上がり、雪菜は背伸びをする。その隣りにとてとてと軽い足音を響かせ、白い猫が足元にやって来た。白い猫はニャー、と鳴くと、雪菜を見上げる。


「何よ、機嫌よさそうにしちゃって」


途端に雪菜は不機嫌そうに呟く。
風呂に入る際、白い猫は自分も入りたい、とでも言うように、自分の後をついてきた。できれば一人で入りたかったのだが、白い猫が自分の唇に顔を近づけてきたため、大慌てで止めて、「入れてあげるから!」と言って、一緒に風呂に入ったのだ。
雪菜が軽く白い猫を睨んでいると、まだ毛が水分を含んで気持ち悪かったのか、白い猫はブルブルと身体を振った。雪菜は慌ててその行動を止める。


「わ、止めて!床が濡れちゃう!」


タオル持ってくるから待ってなさい、と言い、雪菜は寝室へと消えていく。やがて、タオルを持って戻ってくると、その場に膝をつき、白い猫の身体を拭き始めた。力を入れすぎないように優しく拭いてやると、気持ちいいのか、白い猫は目を細め、ニャー、と鳴いた。白い猫の身体を拭き終えると、雪菜は居間のソファーに座る。
すると、白い猫は雪菜に近づき、雪菜の膝の上にぴょんっと飛び乗った。そしてそのまま、膝の上で身体を丸める。雪菜は呟く。


「…重いんだけど」


白い猫は他の猫より体格がよく、大きいため、膝の上に乗られると結構重いのだ。そんな雪菜の抗議に構わず、依然として膝の上に丸まり続ける白い猫に諦めのため息をつくと、雪菜は白い猫の背を撫でた。さらさらふわふわで気持ちいい。


「毛並みいいよねー、ダンテ」


気持ちいい、と続けると、白い猫―ダンテは顔を上げ、青い目でこちらをじっ、と見つめてきた。 何?と首を傾げて問おうとしたその時。

チュッ

「!」


あっという間に口を重ねられ、雪菜が目を見開くと、一瞬何かの影で辺りが暗くなり、次の瞬間には肩を捕まれ、ソファーの背もたれに押し倒されていた。
今の状況がわからず雪菜が目を瞬かせていると、人の姿に戻ったダンテが自分に覆い被さったまま、自分の髪を一房すくい上げ、その髪に口づける。ようやく今の状況を理解した雪菜は顔を真っ赤にして慌てふためく。


「ダ、ダンテ!?」

「お前の髪の方が手触りがいい」


そう言い、ダンテは雪菜の髪を手で梳く。
風呂上がりで少し水分を含んでいるものの、雪菜の髪は絡まることなく、すんなりと指を通す。ダンテが雪菜の髪を指に絡めて遊んでいると、彼女はじっ、とダンテを見つめる。
手を止め、どうした?と問おうとする前に、雪菜の手がすっ、と伸び、ダンテの髪を撫でた。 予想もしなかった行動にダンテが目を見開いていると、雪菜は柔らかく微笑み、言った。


「ダンテの髪もさらさらで手触りいいよ」


銀色できれいだし、と雪菜が続けると、ダンテは柔らかく目を細め、フッと笑うと、「お前には負けたよ」と呟いた。


「ね、もっと触っていい?」

「どうぞ、ご自由に」


雪菜が尋ねると、ダンテは床に座り込み、雪菜の膝の上に頭を乗せた。自然と、ダンテがこちらを見上げる姿勢になる。この体勢だと、白い耳がピコピコと動く様子がよくわかる。
足にかかる心地いい重みを感じながら、雪菜がダンテの髪を撫でていると、ダンテが「俺も触っていいか?」と尋ねてきた。


「いいよ」


そう答えると、ダンテの腕がすっ、と伸び、雪菜の髪を梳く。
お互いの髪に触り、お互いに笑みをこぼしながら、二人はしばらく温かな時間を過ごした。

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