初代の場合
雪菜が雑誌を読み耽っていると、時間を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
雪菜は雑誌から顔を上げて時計を見やる。時刻は午後5時。
「もうこんな時間…。買い物に行かなきゃ」
そう言い、雪菜が立ち上がった時だった。
「ニャー」
足元から鳴き声がして、雪菜は下へと視線を映す。黒い猫が青い目でこちらを見上げている。
雪菜はしゃがみこむと、首を傾げた。
「どうしたの?」
「ニャーニャー」
黒い猫は雪菜の膝に前足を乗せ、ぺしぺしと膝を叩く。雪菜はしばらくの間考え、ある一つの結論を出した。
「…一緒に買い物に行きたいの?」
雪菜が尋ねると、考えが当たったらしく、黒い猫はニャー、と嬉しそうに鳴いた。
そっか、と微笑んで返してから、雪菜の頭にある思いが浮かび上がる。はっとし、雪菜はその思いを打ち消すかのようにぶんぶんと頭を振る。
(な、何考えてるの、私!)
顔を膝に埋め、雪菜はため息をつく。
(人の姿のダンテと一緒に買い物したい…だなんて…)
そんな雪菜の様子を見て、黒い猫―ダンテは心配そうにニャー、と鳴く。雪菜は顔を上げ、ダンテをじっと見つめる。
(伝えた方が…いいのかな…)
雪菜は迷いながらも、口を開いた。
「あの…あのね…」
首を傾げながら、ダンテは雪菜の言葉に耳を傾ける。
「その…。人の姿のダンテと一緒に買い物に行きたいな、って…」
それを聞いたダンテが目を見開く。言わなきゃよかった、と雪菜が思った、その時。
「ニャー」
「…?」
ぺち、とおでこを叩かれ、雪菜が顔を上げると、
チュッ
「!」
自分の口とダンテの口が重なり、驚いている間もなく、次の瞬間には人の姿になったダンテに抱き締められていた。
「そんなかわいいこと言うなよ…」
嬉しすぎるだろ、とダンテが呟く。
自分の肩に置かれたダンテの顔を見ると、ちらりと見えたダンテの顔は赤く染まっており、感情に合わせて、黒い耳はぺたりと伏せられていた。思わず雪菜も顔を赤くする。
ふいに、ダンテが雪菜から身体を離し、立ち上がった。
「着替えてくるから、待ってろ」
「え、でも耳と尻尾…」
雪菜が呟くと、「何とか隠す」と言い、ダンテは寝室の方に消えていく。やがて聞こえてきた箪笥を漁る音に思わずくすり、と笑みを漏らし、雪菜は今からダンテと行く買い物に心を踊らせた。
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