‐『番犬』編‐ 6

―夜。
人々も街も眠りにつき、月だけが存在を主張する中、リアラは庭の木に登り、空を見上げていた。


(不吉な色…)


心の中でリアラは呟く。
リアラが見上げた空に浮かぶ月は、普段の優しい柔らかな銀色と違い、夕刻に見た空と同じく、血を溢したように赤く染まっていた。


(こういう日は、あいつ等が現れやすい…)


そう思い、リアラが目を細めた、その時だった。

ギィィィ…

奇怪な音が耳に届き、リアラは視線を下ろす。
つぎはぎだらけのボロ布を纏い、手や足に鋭利な刃をぶら下げている、奇妙な『もの』達。人間と異なる『もの』達―悪魔だ。
普通の人なら畏怖するそれを、リアラは怯むことも怯えることもせずに見つめる。


(スケアクロウが二十体か…。それに…)


す、とリアラは視線を移動する。
奇怪な人形―スケアクロウ達の後ろに、巨大な黒い塊がいた。


(メガ・スケアクロウか…。あいつがこのグループを統べてる、ってところかしら)


よくまあこの集団で街の人々に気づかれなかったものだ、とある意味感心しながら、ふう、とリアラは息をつく。


(さて、と…さっさといなくなってもらおうかしらね)


心の中で呟くと、リアラは木から降りる。地面に着地すると同時に、それに反応して悪魔達が一斉に視線をこちらへ向けた。
リアラはわざとらしくスカートの裾を掴み、客人にするように深く礼をする。


「デビルメイクライ邸へようこそ」


ですが、とリアラは続ける。


「夜中に侵入してくるような不躾なお客様はお呼びした覚えはないのですが」


悪魔達が唸り声のような軋んだ音を立てる。


「お屋敷の住人の方々の眠りの妨げになるので、お帰りいただけませんか?」


そう言うリアラの言葉に耳も貸さず、獲物を見つけたと喜ぶかのように悪魔達は近寄ってくる。


「…まあ、こう言って聞くなら苦労はしないわね」


一つため息をつくと、リアラは軽く腕を振る。すると、リアラの腕についていた銀色のブレスレットが青い光を放ち、鉤爪を備えたグローブに変化した。
シャキン、と金属特有の高い音を響かせ、鉤爪を出すと、リアラは口角を上げる。


「じゃあ、私と踊ってもらいましょうか。けれど、私の踊りについてこられる人はいるのかしら?」


挑発するようにリアラが言うと、その一言がきっかけのように、悪魔達がリアラに飛び掛かった。

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