‐『番犬』編‐ 4
「だいぶ遅くなっちゃったわね」
「悪い、長い時間つき合わせて」
「ううん、久しぶりにああいうの見れて楽しかったよ。むしろ、ケーキまで奢ってもらってごめんね」
大したことしてないのに、とリアラが言うと、そんなことはない、とネロは首を振る。
「すごく助かった。うちの屋敷は男ばっかだから、こういう相談ができるのってリアラだけだし」
「そっか。ならよかった」
リアラがにこりと笑うと、つられてネロも笑う。
キリエへのお返しを買ったあの後、ネロがお礼に、と喫茶店でケーキを奢ってくれた。そこは静かな落ち着いたお店で、ネロによると、前にここを歩いていた時に見つけたらしい。「リアラ、こういうところ好きかと思って」というネロの心遣いがとても嬉しかった。お店の雰囲気もいいし、ケーキもおいしく、リアラのお気に入りの場所の一つになった。
「さて、じゃあ帰ろっか」
「ああ」
屋敷に帰ったら仕事しなきゃ、と呟き、リアラは歩き出そうとした。
だが。
(―!)
ふいに何かを感じ取り、リアラは足を止め、空を見上げる。
赤く染まった空。だが、いつもと違う空。まるで、血を溢したかのような。
(嫌な予感がする…)
魔狼の血ゆえか、人より鋭い感覚が訴える。今夜は―
「…リアラ?」
「!ごめん、今行く!」
先を行くネロの呼びかけに我に返り、リアラは歩き出す。屋敷への道を辿りながら、リアラは微かな声で呟く。
「帰ったら、初代さんに言わなきゃ…」
今夜は、忙しくなりそうだ。
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