‐『番犬』編- 2

昼下がり、住宅街から少し行ったところにある商店街。休日で大勢の人が行き交う中、リアラとネロは並んで歩いていた。


「やっぱり、人が多いですね…」

「ああ…」


リアラが呟くと、ネロは少しげんなりとした様子で頷く。
人混みが苦手なネロがわざわざリアラを連れて休日の商店街に来たのには理由がある。
数日前、ネロは同じ学校に通う幼なじみのキリエから手作りのクッキーをもらった。彼女は好意でくれたのだろうからお返しなどいらないと思うのだが、だからといって何もしないというのはよくない。そう思い、お返しをしようと思い立ったのはいいが、人に、ましてや女性にプレゼントをしたことなどなく、何を渡したらいいかわからない。散々悩んだ挙句、屋敷唯一の女性であるリアラに一緒に選んでもらおうと思い立ち、今この状況に至っているというわけだ。
キリエはネロより一つ年上で、おしとやかで清楚な女性だ。彼女の家が屋敷と近いこともあり、時々屋敷へ遊びに来ている。リアラも何度も顔を合わせており、リアラの方が年上ということで、恐縮ながら、彼女から姉のように慕われている。


「どの店から行けばいい?」


ネロに聞かれ、リアラは辺りを見回す。


「そうですね…。あのお店から行きましょうか」


リアラがある店を指差しそう答えると、ネロは頷き、あのさ、と口を開いた。


「屋敷の中じゃないから、敬語はなしにしてくんない?」


リアラは目を瞬かせると、ああ…と納得する。
以前、ネロの部屋で彼の話相手をしていた時、彼はそっちの方が年上だし、二人の時は敬語はなしにしてほしい、と言った。メイドと雇い主の息子という関係上、それはできないと一度は断ったのだが、そんなの関係ない、ときっぱりと言われたことと、主従関係などなしで対等にというネロの考え方が嬉しく、それを承諾したのだ。
若に対してもそう言ったらしく、若とネロの二人でいる時も敬語なしで話しているし、時々三人でお茶する時も主従関係なしで話している。


「わかった」


ふわりと笑ってリアラが頷くと、満足そうにネロも笑った。

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