‐一日編‐ 4

支度を終えた若を連れてリアラは調理場へと急ぐ。調理場の扉の前で軽く身支度を整えると、リアラは扉を開けた。キョロキョロと中を見回して見知った人物がまだ来ていないことを確認する。


「間に合った…」


部屋の真ん中にある調理台に移動し、リアラはふう、と安堵のため息をつく。
時刻は6時25分。仕事が始まるのは6時半からなので、かなりギリギリだった。 隣りに並んで立つ若が申し訳なさそうに言う。


「ごめん、リアラ…」

「謝るくらいなら、今度からちゃんと起きて」


何度目かわからないやりとりをしていた時、扉が開き、執事服を着た男性が入ってきた。男性は調理台に近づき、台の前に立つリアラと若を見やると、


「全員揃っているな」


と言った。
男性は視線をリアラへと移すと、申し訳なさそうに口を開いた。


「リアラ、若を起こしに行ってくれたみたいだな。いつもすまない」

「あ、いえ、いつものことですから…」


苦笑しながらリアラは答える。
目の前の男性―初代はリアラと同じくこの屋敷で働く執事であり、この屋敷で働く使用人達をまとめる(といっても、この屋敷で働く使用人は彼を含め三人だけなのだが)役目を持っている。つまりは、リアラと若の上司である。
初代は若へと視線を移すと、きつく注意する。


「若、リアラに迷惑をかけるな。リアラだって、毎日お前を起こしに行くのは大変なんだぞ」

「すみ、ません…」


注意され、若はしょんぼりと項垂れる。次から気をつけろ、と言うと、初代は眼鏡をかけ直す。


「さて、今日の予定だが…」


本題に入ったことにより、二人は背筋を正す。


「まずは朝食の用意。リアラは俺の調理の補助、若は旦那様達を起こしに行け」

「「はい」」

「朝食が済んだら、学校に向かうネロ様の見送り。その後は朝食の後片付け、それが終わったら屋敷の掃除だ。午後の予定は昼の休憩時に話す」


開いていた手帳を閉じると、初代は二人を見やる。


「以上だ。各自、仕事を始めろ」

「「はい!」」


初代の言葉を合図に、リアラと若は仕事を始めた。

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