‐一日編‐ 3
身支度をし、朝食も済ませたリアラは隣りの部屋の前にいた。
コンコン、と扉をノックし、リアラは部屋の主に向かって声をかける。
「若ー、起きてるー?」
少し時間を置いてみるが、部屋の中から返事は返ってこない。リアラはため息をつく。
(また寝てるわね…)
リアラはためらいなくドアノブを捻る。キィ…と音を立て、抵抗なく扉が開いた。
中に入り、リアラはベッドのある方へと視線を向ける。すると案の定、部屋の主が布団にくるまって寝ていた。リアラはベッドへと近寄り、布団にくるまる塊をゆする。
「若、起きて」
「んー…もうちょっと…」
リアラが声をかけると、部屋の主―若は布団の中でもぞもぞと身動ぎし、眠たそうな声をもらした。枕を抱いて寝ている姿はかわいらしく、このまま寝かせてあげたいのだが、今はそうはいかない。
「若、初代さんにおしおきされたいの?」
最終手段とでも言うようにリアラが告げると、それを聞いた若がガバリ、と音がしそうなほどの勢いで起き上がった。
「おしおきは嫌!」
「やっと起きた」
「え、あ、あれ…?リアラ…?」
叫ぶように言った若は回りをキョロキョロと見回し、傍にいたリアラを認めて目をしばたたかせる。
リアラは再びため息をつく。
「初代さんに怒られたくなかったら、早く起きなさいよ」
ほら、早く支度して、と続け、リアラは若をベッドから立ち上がらせる。
若はリアラと同じくこの屋敷で働くメイドだ。リアラが雇われる前からここで働いておりリアラより勤めている年数は長いはずなのだが、けっこうおっちょこちょいなところがあり、いつも初代に叱られている。
…どうも、先輩に見えない。それに、年下だし。鏡の前で若の髪を整えてやりながら、リアラは深いため息をついた。
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