Animal Knight 9

平日とはいえ、いつも地元のお客が来る店内はそこそこ賑わっていた。
そんな中、リアラはカットルームでお客であるクロの毛をカットしていた。
シベリアンハスキーのオスである。


「よし、終わり!シャンプーするから、移動するよ」

『うん』


よいしょ、と勢いをつけてクロを持ち上げると、リアラはシャンプー台に移動する。そして、棚からシャンプーを取り出すと、手に取り、クロの身体を洗い始めた。


「どこか痛かったりしない?」

『痛くはないけど、さっき切った毛で背中が痒いよー…』

「背中ね、これでいい?」

『んー、気持ちいいなぁー…』

「ほら、尻尾振ったら泡が飛んじゃうわ。大人しくしてて」


優しくたしなめつつ、リアラはクロの身体を洗ってやる。


『今日この後、雪と散歩するんだ』

「よかったね。でも、今日は暑いから、ちゃんと水分取るんだよ」

『うん』


シャワーで泡を洗い流すと、リアラはドライヤーをかけながら、丁寧にクロの毛をブラッシングしていく。


「はい、終わり。じゃあ、雪ちゃんのところに行こっか」

『うん!』


クロは嬉しそうに尻尾を振る。
リアラがクロと一緒にカットルームから出てくると、黒髪の女の子が走り寄って来た。


「クロ!」


女の子は長い髪を揺らすと、クロを抱きしめる。
クロの飼い主でこの辺りでは珍しい日本人の女の子、雪だ。


「わー、ふわふわだー!」

「ふふ、気持ちいい?」


屈んでリアラが聞くと、雪は嬉しそうに笑う。


「うん!お姉ちゃん、いつもありがとう!」

「どういたしまして」


リアラが笑って返すと、雪は母親から預かってきたお金をリアラに渡す。
8歳にしてはしっかり者である。


「この後、クロと散歩に行くんだって?今日は暑いから、お水持っていってあげてね」


もちろん、雪ちゃんの分もね、とリアラが言うと、雪は大きく頷く。


「うん!またね、お姉ちゃん!」

「またね」


リアラに大きく手を振ると、雪はクロと一緒に店を出る。
ふいに、クロが動きを止めた。


「クロ?どうしたの?」

「……」


クロは何かを探すように視線をさ迷わせる。
何か、視線を感じたような気がしたのだが…。
そんなクロを雪はリードを引いて急かす。


「早くお家にもどろう、クロ。おさんぽの時間なくなっちゃう」

「ワンッ!」


気のせいかもしれない、そう思い、クロは急かされるままに雪と歩き始めた。
店の向かい側で、電柱の影から何かが店を見ていた。

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