命の砂時計 12

「う…」


名前はゆるゆると瞼を開ける。
唯一動く頭で辺りを見回す。どうやら、どこかの廃工場のようだ。


『やっと起きたか』


近くから声が聞こえ、名前は声のした方を見やる。悪魔がこちらに向かって歩いてきていた。
名前は悪魔を睨みつける。


「…さっさと食べればいいじゃない」

『私はそこら辺の下級悪魔とは違う。獲物をじっくりと追い詰めて、恐怖に染めていって…絶望に生きる気力を無くしたところで喰らうのさ』


その方がうまかろう?と悪魔は笑う。


「…最低ね」

『どうとでも言うがいい。どのみち、お前は助からない』


悪魔は名前の髪に手を伸ばし、ぐいっと持ち上げた。つられて名前の身体も持ち上がる。


「うっ…!」

『とはいえ、腹は空いているのでな。手始めにお前の髪でもいただこうか』


そう言うと同時に、悪魔は口を大きく開き、鋭い牙で名前の髪に噛みついた。
ブツリ、と音を立てて、名前の髪が噛み切られる。


「っ…!」

『うまい、やはり女の髪はうまいな』


恍惚とした表情で悪魔は呟くと、名前の上に馬乗りになる。手で胸の上から肺を圧迫され、名前は苦しそうに息を吐く。


「は…っ」

『いいぞ、もっと苦しめ、もっと恐怖に顔を歪めろ』


そう言って笑う悪魔に、名前は悪魔を見据えて言った。


「誰が、あんたなんかのために、苦しむもんですか…絶対、泣いても苦しんでも、やらないんだから…」

『…その言葉、後悔するなよ、娘』


途端に顔色を変えると、悪魔は名前の首に顔を近づける。


『まずはその喉を噛み切ってやろう。そうすれば、話すことも、息をすることもできまい』


はあっ、と悪魔の息が喉元にかかる。
名前はゆっくりと目を閉じる。


(ダンテ…)


悪魔の牙が名前の喉元に突き刺さろうとした、その時。


「そいつに触るな!」


声が響くと同時に、工場の窓が音を立てて割れて、何かが中に入ってきた。
声のした方を見て、名前は小さく呟く。


「ダ、ンテ…」

『ほう、よくこの場所がわかったな』

「事務所に残ったお前の気配を辿った」


ガラスの破片を踏みしめながら、ダンテは二人に向かって歩いてくる。その手には、双子銃が握られている。


「そいつから離れろ。死にたくなかったらな」

『ふ、おもしろい…。できるものならやってみろ!』


叫ぶと、悪魔は一気に姿を変えた。
人の形は完全になくなり、四つの足を持つ鳥のようなものに変わる。身体全体が石でできており、まるで石像のようだ。
銃を構えながら、ダンテが呟く。


「ガーゴイル、ってやつか…」

『いくぞ!』


翼を広げ、悪魔がダンテに飛びかかる。それを避け、ダンテは悪魔にすさまじい数の銃弾をくらわせるが、悪魔の身体には傷一つつかない。


『そんなもの、私には効かぬ!』


叫び、悪魔はダンテに向かって前足を振り上げる。ギリギリで避けたダンテが先程自分が立っていた場所を見やると、コンクリートの床にひびが入り、大きくへこんでいた。
悪魔から距離を取り、ダンテは考える。


(巨体の割に動きは素早いし、力もあるな…。それに、あの身体が厄介だ。傷一つつかねぇ)


どうしようかと考えている最中も、悪魔はダンテに踊りかかる。

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