命の砂時計 11

一方、依頼を終えたダンテは急いで事務所に向かっていた。昼に感じた違和感が、不安となって拭えずに心の中に留まっていたからだ。


(頼むから、当たらないでくれ…!)


祈るように呟きながら、ダンテは走る。
だが、事務所に着いた時、ダンテは不安が現実になってしまったと悟った。
事務所の扉は開け放たれており、入口には倒れた車椅子。足が不自由な彼女が二階に上がれないことは考えなくてもわかることで。
思わず拳を壁に叩きつける。


「ちくしょう…!」


唇を噛みしめ、俯いたその時、視界の端に白いものが移った。ダンテが顔を上げると、テーブルの上に白い封筒が置いてあった。
テーブルに歩み寄り、ダンテは封筒を手に取る。


「何だ…?」


首を傾げながら封筒を開くと、中には手紙が入っていた。ダンテは手紙に目を通す。

『ダンテへ
きっと、これを読んでいる時は私はここにいないでしょう。だから、ダンテに伝えられなかったことを、これで伝えます。
私、本当はわかってたの。自分が動けなくなる日。―一年前、悪魔に襲われた時、悪魔に言われたの。「一年後に、お前の命を貰いに来る」って。それが、私が死ぬ日だって、わかった。
どうして言わなかったって怒るかもしれないけど、どうしても言えなかった。だって、私に呪いをかけた悪魔が、言ってたから。「裏切り者のスパーダの息子」って。私、思わず言っちゃったの。「ダンテ…?」って、言ってしまったの。それで、悪魔に目をつけられた。
言えるわけがなかった。だって、悪魔はダンテを探してる。私が言ったせいでダンテがその悪魔と戦うって考えたら、どうしても言えなかった。なのに、悪魔を探してって頼むなんて、私は酷い女だね。ごめんなさい。
あとね、一つだけ…あのね―』

最後の一文に目を通した時、ダンテは目を見開いた。ぐしゃり、と手紙を握りしめる。


「馬鹿野郎…!」


呟き、ダンテは事務所を飛び出す。

『―ダンテのことが、好きだよ。昔から、大好きだった。悪戯好きで、馬鹿ばっかりやって。でも、いつも優しくて。いなくなった時は悲しかったよ。だから、あの時、会えてすごく嬉しかった。優しいところは変わってなかった。だから―ダンテ、大好き。私のことは―忘れて。
       名前』

「このまま死なせてたまるか…!」


叫び、ダンテは夜のスラム街を駆けぬけた。

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